東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
016
そして、あっという間にクリスマス、お正月とが過ぎていく───……
「わさび?」
「……」
「わさび!」
「っ! はい、なんでしょうか」
一年で最も寒く、雪と氷に包まれる二月のノーザンは、皆必要最低限の仕事だけで済ませ家で待機する。山葵もこの日は馬のお世話だけを済ませ、午後からはリビングの暖炉の前でウトウトとしていた。
居眠りをしていてインターフォンの音に気付かない山葵に代わり、仕事中だった紀糸が彼女を呼びに来た。
「月見里が来たぞ、上がってもらうか?」
紀糸は未だ燕を旧姓で呼んでいる。そこに特に意味はない。
「はい……」
紀糸が燕をリビングに通すと、山葵は寝ぼけ眼をこすりながら、得意のルイボスティーを淹れて出した。なぜか、紀糸も仕事へ戻らず自分だけバリスタマシーンでコーヒーを淹れて、同席している。
「お昼寝してた? 起こしちゃってごめんね」
「問題ありません、どうかしましたか?」
燕は紀糸の方をチラリと気にしながら、話しをはじめた。
「あのね……笹くんが毎年毎年、どうしてもバレンタインは手作りチョコが欲しいって、要求してくるんだけど、わさびちゃんも一緒にどうかなって」
その話の内容に、紀糸は先ほどからチラチラと感じた燕から視線の理由に気付くが、今更遅い。彼は席を立つつもりはない。
「手作りチョコですか? チョコは自分で作れるのですか?」
バレンタインには苦い思い出のある山葵と紀糸。
「もちろん作れるよ。カカオ豆からってわけじゃないけどね。もしわさびちゃんも一緒につくるなら、東雲くんも食べやすいような洋酒のボンボンにしようかなって」
ボンボンと言われても全くわからない山葵は、丁度そこにいる受け取り手に聞いてみる事にした。
「……紀糸、わさびがそのボンボンとやらを作ったら食べますか?」
「食べる」
即答する紀糸に、山葵はいつぞやのバレンタイン事件を思い出しニヤっとする。
「ではつばめさん、夫が所望するのでわさびも一緒に作ることにします」
なんだかんだ言って、紀糸が嬉しいと嬉しい山葵。この夫婦はいつもこんな感じ。
「そう! 良かった! 材料は私が揃えるから、社員食堂の機材と厨房を借りてもいいかな? 笹くんが、サプライズにこだわるの……」
「面倒な男ですね、笹くんは」
紀糸はサプライズよりも、山葵のことをすべて把握していたいタイプであると、彼女は知っている。なので、今もこうして女子の会話に平然と参加していても気にしないのだ。
「でしょう? でも、そこが可愛いんだよね……ふふふっ」
幸せそうに微笑む燕を見て、山葵も少し心がポカポカする。
「つばめさんも惚れた弱みですね。紀糸と一緒です」
ノーザンに積もる雪は、新婚夫婦の熱で溶けそうだった。