東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中

002

 
 
わさび、わさび(あちゃび、あちゃび)
「おうま、おうま!」
 
「なんですか? ───ああ、駄目です、君たちはまだあのお馬さんには乗れません。10年後に出直してください」
 
 その時、紀糸の前には、幼い双子に左右から手を引かれる妻、山葵の姿があった───……
 
 
 妻と二人きりで過ごす休日を奪われ、若干面白くない朝を迎えていた紀糸だったが、その珍しい光景を前に、まんざらでもなくなっていた。
 
 山葵は相変わらずの無表情、子供に対しても大人と変わらぬ塩対応だ。しかし、山葵が何をしてもキュンとする紀糸にとっては、思わずスマホを動画モードにしてこっそり撮影したくなる光景だった。
 
 ───いい……山葵と子供……悪くないな。
 
 
「東雲先輩、うちの天使達を盗撮しないでもらえますか」
 
「安心しろ。お前の子供は腕と頭頂部しか映っていない」
 
「……」
 
 
 
 
 ノーザンのプラネタリウムの演出等の一切を請け負うIT企業、zuv.tecのプログラマー兼システムエンジニアであるキラくんこと、黒霞 稀羅(くろかすみ きら)はその日、自身の三歳になる双子を連れ、ノーザンを訪れていた。
 今回は妻のひよ子が不在の為、子守要員として彼の家族も同然の男、健二が一緒に来ている。
 
「紀糸、わさびはキラくんと打合せをしてきますので、健二さんと一緒に双子を見ていてもらえますか」
 
「……俺に、子守をしろと?」
 
 突然の無茶ぶりに、若干戸惑う紀糸。
 彼はこれまで、子供と触れ合う機会などなかった。そうでなくても、子供に怖がられるタイプなのだから。

「出来ないのですか?」

 全て見透かすような、仄暗い眼にジッと見つめられ、思わず息を呑む。
 
 少なくとも、妻の前で出来ないなどとは言えない。否、言いたくはない。
 
「……任せておけ」

「さすが紀糸です」
 
 山葵が両手に連れていた双子は、そのまま紀糸の両手に託された。山葵はその光景に、一瞬吹き出して笑い、そのまま背を向ける。
 
「では、キラくん行きましょう」
 
「おう。健二、俺の天使達を頼むぞ! えーっと……東雲先輩も……無理せず、健二に任せてくださいね」
 
「問題ない。いいからさっさと終わらせて戻ってこい」

 
 こうして、紀糸の初めての子守タイムが始まった。
 
 
 
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