東雲家の御曹司は、わさびちゃんと新婚蜜月中
 
 
「マスター、ひとまず我々はカフェへ行きましょう。カフェなら女性スタッフもおりますし」
 
 山葵が東京に行くたびに足を運ぶゲイバーがある。彼女お気に入りのそのゲイバーのマスターこそ、目の前にいる健二なのだ。
 山葵は紀糸の仕事が終わるまでバーで待ちながら彼と交流し仲を深めているが、山葵を迎えに行き一杯飲む程度である紀糸は、現状、マスターとしての健二としか接点がない。
 
 双子がいるとはいえ、二人きりでは話しが弾むわけもないと思い、紀糸は早々にノーザンの女性スタッフに助けを求めようとする。
 
 そもそも、健二と二人で話が弾まないわけがないのだが、紀糸はそれを知らない。

 そんな彼を見て、健二は笑う。

「東雲さん、この子たち、今はカフェよりもお馬さんがいいみたい。安心して頂戴っ♡ 双子ちゃんは私がいればぐずったりしませんからっ♡ もちろん、健二もイケメンと一緒ならぐずりません♡」
 
 健二もぐずらない、というくだりには触れず、馬がいいという双子の意見について、どうしたものかと紀糸は考える。
 
「……馬か、ならデカい馬でなく夏に生まれた仔馬を見に行くか」
 
 紀糸にしては気の利いた提案に、理解しているのかしていないのか、双子は喜び、健二も笑顔で頷いた。
 
「「おうま! おうま!」」
 
 早く行こうと急かすように紀糸の両腕を引っ張る双子を見て、健二は右側の子供を一人抱き上げる。
 
「もう一人は東雲さんが抱っこして頂けますか?」
 
「ああ、任せろ」
 
 子供の前にしゃがみ込み、紀糸は15キロあるかないかの人間の子供を持ち上げた。
 普段、ジムでのトレーニングの際にかけている負荷に比べたら軽いものだ。紀糸は余裕の笑みを浮かべる。
 

「ちののめ!」
 
「なんだ?」
 
「アレ!」
 
 子供の指さす先には、もう一人の子供を肩に乗せる健二の姿があった。
 
 ───俺にも肩車をしろと言っているのか……いいだろう、やってやろうじゃないか。
 

「キャーッ! たかいたかい!」
 
 健二やキラよりも身長のある紀糸は、当然肩車も高い。子供は大興奮だった。
 
 思いのほか体幹を鍛えられる肩車に、明日の筋肉痛を覚悟しつつ、四人は仔馬のいる馬房へと向かうのだった。
 
 
 
 
 と、そこに……
 
「健二くん!?」
 
「まぁ! 五郎ちゃんじゃない♡」
 
 アストレイザーの遠乗りから戻ったらしい五郎に出くわした。どうやら二人は知り合いのようだ。
 
「そういえば、山葵が二人の料理の味が似ていると言っていたが……まさか……」
 
「そうなんですよ。わさびちゃんには話してありますが、健二くんは私の料理の師匠なんです」
 
「五郎ちゃんの師匠の健二です♡」
 
 
 と、ここで紀糸の脳内にあることがよぎる。
 彼は、山葵が杏奈から借りて勉強しているBL漫画(参考書)を強制的に読まされ、僅かながらにその知識を得ていた。
 
 ───確か……五郎さんはバリタチで健二さんはネコだって話だよな……もしかして……
 
「五郎ちゃんがここにいることは座敷わらしちゃんから聞いてはいたから、来れば会えるかと思ったけど、早速会えて嬉しいわぁ~♡」
 
「私もだよ。いやぁ、本当に久しぶりだ。今日はこっちに泊り? どう? 今夜一杯」
 
 よからぬ妄想を膨らませる紀糸をよそに、盛り上がる二人。
 
「……」
 
 ───おい、オッサン達……それは子供の前でしていい話なのか?
 
「ごめんなさいねぇ。今日は双子ちゃんの子守要員で来ただけだから、また今度ね♡」
 
「そうか……残念だね、またの機会に是非」
 
 一度そう勘ぐってしまえば、もはや二人がそういった関係であるようにしか見えなくなってしまった紀糸。
 残念そうな表情を浮かべる五郎に、思わず声をかける。
 
「五郎さん、俺達はこれから仔馬を見に行くんだ。アストレイザーを置いて、あなたも来ればいい」
 
「え? ああ──……では、そうしましょうかね」
 
 紀糸の誘いに乗ることにした五郎だったが、別に健二と一緒にいたいわけでもなんでもない。そもそも、五郎と健二はお互いがタイプではないのだ。
 ただ、紀糸が健二と二人きりでの子守が気まずいのではないか、と空気を読んでのことだった。
 
「……」
「……」
「……」
 
 こうして、子守が一人増えた。
 
 
 
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