一夜から始まる、不器用な魔術師の溺愛

第1章 一夜の過ち

その夜、私は少し酔っていた。

「セレス、まだ恋人いないの?」

向かいの席で杯を傾けているのは、同じ魔女仲間のリリアだ。

彼女は三年付き合っている恋人と、今では一緒に暮らしているそうだ。

「二十二歳にしては奥手ね。もしかして、まだ処女?」

不意打ちの言葉に、私は思わずかぁっと顔を赤くした。図星を突かれたからだ。

「べ、別に悪いことじゃないでしょう。……ただ、機会がなかっただけで」

「まあ、そういうのはタイミングだから」

リリアは悪戯っぽく笑って杯を傾けた。

酔いが回り始めたせいか、胸の奥が妙に熱い。

——私も、本当は恋をしてみたい。誰かに抱きしめられたい。

そんな当たり前の願いを、心のどこかでずっと我慢していた。

けれど、魔女はこの国の宝と呼ばれ、人々から敬われる存在だ。

黒い尖り帽子を被っているだけで、街の人々は道を譲り、気軽に声をかけてはこない。
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