一夜から始まる、不器用な魔術師の溺愛
そういう風習が、この国には根付いているから。

だからこそ私は、いつも遠ざけられてきた。

魔女である前に、一人の女なのに——。

「どうせ、恋なんてできませんよ。」

気づけば、そんな言葉が口をついて出ていた。

リリアは杯を口元に運び、ふふっと笑う。

「魔女なんだから、惚れ薬くらい作れるでしょ。」

「……その前に、好きな男すらいないわ!」

自分でも情けないと思う。

二十二歳にもなって、恋人どころか、好きな人すら現れたことがないなんて。

まるで心だけ取り残されているようで、急に寂しさが押し寄せる。

「そのうちできるわよ。身を焦がすような恋人が。」

リリアの言葉はあまりにあっさりとしていて、逆に胸に響いた。

長い黒髪を揺らし、堂々と笑うリリアが、その時だけ少し大人に見えた。

私と同じ魔女なのに、彼女の瞳はきらきらと恋を知る女のもの。

羨ましい、と初めて思った。
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