花火が降る夜
第一話 後編

通夜の夜は、一晩中線香を絶やさないように見守る。
番は親戚たちが交代で決めていき、私は明け方の時間を担当することにした。

葬儀は久しぶりに親戚が顔を合わせる場でもある。
田舎の葬儀は規模が大きく、集まる範囲も広い。
だから、悲しみの場でありながら、同窓会のような再会の空気も混じる。
酔いが回り、一晩中飲み明かそうとする人たちの笑い声が母屋から響いていた。

私は離れの自室に戻る。
賑やかな声を遠くに感じながら、いつの間にか眠りに落ちていた。

──夢を見た。

白いワンピースの女の子。
昼間、畦道ですれ違ったあの子だ。
十六、十七歳くらい。とても可憐で、美少女だった。

「勇作さん、今夜の花火、一緒に行こうよ」

そう呼ばれた青年が隣にいた。
少し年上だろうか。端正な顔立ち、すっとした背筋。
……勇作さん?

「僕は宗一郎さんと部屋から花火を見る約束をしているんだ」

宗一郎。
その名に心臓が跳ねる。
曾祖父・宗一郎の若い頃だろうか。ではこの少女は──志乃おばあちゃん?

「宗一郎くんが、勇作さんと行っておいでって言ったんですけど」

少女は唇を尖らせ、ふくれっ面を見せた。

「宗一郎さんは今、体調があまり良くない」

「でも、今朝窓から手を振ってくれた時は元気そうだったのに」

「志乃さん。宗一郎さんは、あなたに弱い姿を見せたくないんですよ」

志乃さん……やっぱり。
この少女が、志乃おばあちゃん?

「じゃあ、後で宗一郎くんに梅ゼリーを作って持っていこうかな。宗一郎くん、小さい頃から好きなんだ」

「ええ。あなたが作ったものなら、何でも喜ぶでしょう」

……これは、私の想像?
それとも志乃おばあちゃんの亡骸が呼び覚ました記憶?

私が知る志乃おばあちゃんは、最初から皺の多いおばあちゃんだった。
若い頃の写真なんて数えるほどしかない。
もしこれが真実なら──志乃おばあちゃんは、こんなに美しい少女だったのか。

けれど待って。
昼間にすれ違ったのは?
あの白い日傘が肩に触れた感触は、確かにあった。
夢じゃない。幻でもない。

……小さな物音で目が覚める。
母屋の騒ぎはだいぶ落ち着いたようだが、まだ笑い声が残っていた。

──トントントントン。

小さなノック音。
私の部屋は母屋と廊下で繋がっているけれど、外からも出入りできる。
その外の扉が、四回叩かれた。

合図だった。
それは昔から晴翔が来たときの。

あの頃、
毎晩のようにお互いの熱を重ね合わせた。

六年離れたのは何だったんだろう。
何のために距離をとったのだろう。

体が思い出して、心が一気に熱を帯びる。

母屋からは決して見えないその扉を──
私は、ためらうことなく開けていた。
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