桜吹雪が舞う夜に
挑発 Hinata Side.
桜と連絡が取れないまま、2週間が過ぎようとしていた。
それでも、こんなこと仕事中に考えることじゃない。
少し、外の空気を吸いたい。
そう思って病院のエントランスに向かっていた時だった。
廊下の向こうから聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、そこに桜がいた。隣に立っているのは――
……よく知っている人物だ。それでも、理解が追いつかなかった。
やがて桜のほうも俺に気付いたのか、歩みを少し怯えたように止めた。
「……なんでお前らが一緒にいるんだよ」
反射的に吐き出した声は、自分でも驚くほど荒かった。
「ー水瀬」
……忘れられるはずがない。かつての自分の恋人の名だった。今となっては、ただ命を救うという志を同じくした同志であり、戦友。どうして2人が一緒にいる?
水瀬は平然と腕を組み、いつもの余裕を崩さない。
「声をかけただけ。
桜ちゃんに“ER見学してみない?”って言ったの。
学生にとってはいい経験でしょう?」
……耳を疑った。
「……は?」
瞬間、血が逆流するような感覚が走った。
「……ふざけるな。ERは命を削る現場だ!お前が一番よく分かってんだろ!男の研修医でも潰れるんだぞ!?
桜を、学生をそんな場所に連れて行くな……!
余計な憧れを、植えつけようとするな!」
言いながら、自分でも声が荒くなるのを抑えられなかった。
桜の視線が一瞬揺れるのが見え、胸がざわつく。