桜吹雪が舞う夜に
……自分で、決めるしかない。
そう言われるほどに、私はどうしようもなく迷ってしまう。
――でも、あの人を裏切れない。
日向さんが見せてくれた優しさを。
私の未来まで考えて、真剣に言葉をくれるその重さを。
「守る」と言ってくれる腕の温もりを。
それを全部、ただ「重い」と片付けてしまうなんて、できない。
裏切ったら、きっと私は自分を許せなくなる。
「……桜ちゃん?」
俯いたままの私を覗き込むように、酒井先輩が小さく呼んだ。
「……大丈夫です」
無理に笑みを作って答えると、声が少し掠れていた。
「そっか」
それ以上は追及せずに、彼は再びジョッキを手に取った。
氷が溶けて薄まった水割りを口にしながら、
どこか遠くを見るような表情をしていた。
私はグラスを握り締めたまま、視線を落とした。
氷はもうすっかり消えていて、透明な水に自分の顔がぼんやりと映っていた。