ハイスペ男子達の溺愛が止まりません!

4,クラスメイト

「白雪さぁ」
赤い髪が首を傾けたのと同時にふわっと舞う。
目の前で肘をつく男子——赤羽 新くんは、眉を寄せながら私の名前を読んだ。
いかにも不満がありそうなその表情に私は困った様に笑みを浮かべることしかできなかった。
「俺らと仲良くする気ないわけ?」
信じられないと言ったように問いかける赤羽くんに、私は「えっと……」と言葉を詰まらせる。
私だって別に仲良くしたくないわけじゃない。
同じクラスでこれから1年過ごすわけだし、できることなら良好な関係を築きたいに決まっている。
だけどそれができそうもないから困っているのだ。
あれは入学式の日。
オリエンテーションも終えて帰る時のことだった。
『ちょっと良い?』
そう声をかけられて、女子数名に校舎裏へと連れて行かれた。
そして……
『あなた、本当にSクラス?』
バッジをつけているからわかるだろうに、ジロジロと私を頭から足の先まで見回した後、ため息をついて言われたのはそんなセリフ。
そりゃあ、他の5人がすごくイケメンだから期待しちゃうのもしょうがないけど……。
流石に面と向かって言われると傷つくと言いますか……。
『特Sに10年ぶりに女子生徒が入ったって聞いてたのに、これじゃあね……』
クスクスと後ろにいた女子が嫌な笑い声を響かせる。
『あなた、絶対にあの5人に近づかないでよね!?あなたみたいな華もない人が“S5”に近づいたら、その貧乏臭さが移ってしまいかねないから。……わかった?』
本当に卑怯だと思う。
大勢で囲んで威圧をかけてくるなんて。
こうなるのが分かっていたから、あの人達には関わりたくなかったのに……。
今更嘆いてもしょうがないけど。
私は『聞いてるの!?』とさらに声を荒げるリーダー格の女の子に頷いて見せた。
満足したのか、ふふんと鼻を鳴らして校舎をさっていく。
その様子を動けなくなっていた私は、ただ見ていることしかできなかった。
……だから、目立つなんてもう嫌だ。
「白雪、聞ーてる?」
おーいと手を振りながら首を傾げる赤羽くん。
「うん、聞いてる。」
それだけ返して、視線を本へと戻した。
いかにも会話したくありませんというアピールに流石に諦めるかと思ったけど、赤羽くんは私から本をぐいっと遠ざけた。
「せっかく同じクラスなんだし、会話くらい——」
「まあまあ新。白雪さんにも事情があるだろうし……」
いよいよ困り果てたのが伝わったのだろう。
緑川くんが宥める様にして赤羽くんを私の机から離してくれる。
「そうかもしんないけど……」
赤羽くんはまだ納得してないようで、抗議する様に緑川くんへと体を向けた。
「……新、悪い癖が出てる。」
すかさず斜め前から鋭い言葉が飛んできて、赤羽くんの表情はしまったというものへと変わる。
「白雪、ごめん。強引すぎたよな。」
「ううん、大丈夫。」
頭を下げられ私もなんだか申し訳なくなりながら返答をする。
赤羽くんは素直だから、どうしても憎めない。
何処までもまっすぐで、それが私にはすごく眩しかった。
「いやー、今日もダメだった。」
「しょうがないよ、女子1人なんだし。色々思うことがあるんじゃない?」
盗み聞きするつもりはなくても6人しかいない教室にはやけに声が響く。
聞こえてきた会話に、私は心の中で謝ることしかできなかった。
入学してから1週間。
赤羽くんは毎日の様に私に話しかけてくれる。
他の5人は幼馴染だそうで、もう既に人間関係は構築済み。
あとは私と仲良くなれば、このクラスの全員と話せると言える様になるだろう。
だからか、赤羽くんはいくらそっけない言葉を返してもめげずに話しかけてくれる。
私にはそれが嬉しくもあって、同時に苦しかった。
仲良くしたら、また……。
その先を考えて、体が震える。
……大丈夫、落ち着け私。
あんなことを起こさない為に地味な格好までしてるんでしょ。
誰も知り合いが居ない超難関中学って言われるこの学園に入ったんでしょ。
そう言って自分自身を励ましてみたものの、どうしても気持ちを回復させることはできなかった。
「……はぁ」
その現れかため息が漏れてしまう。
「辛気臭くなるのでやめていただけますか?」
すると、後ろから刺々しい言葉が飛んできて、「すみません」と反射的に謝った。
私の後ろの席に座っているのは青柳(あおやぎ) 煌(こう)くん。
眼鏡をかけていていかにも勉強ができそうな感じの男の子。
こちらもかなり美形だ。
私と同じく、学問メインでこの学園に入ったらしく、初日から私にだけ当たりがきつい。
……その理由にはなんとなく察しがついていた。
多分、彼が私に冷たいのは、私が主席だからだろうな。
彼は次席で、そのことが気に入らないのだろう。
「煌。負けて悔しいからって、白雪さんに八つ当たりしないの。」
すかさず緑川くんが注意してくれる。
緑川くんは優しく包容力のあるお兄さん的ポジションで、いつも助けてくれる。
頼りになる人だ。
「……違いますよ。ため息なんて吐かれたら、教室の雰囲気が悪くなりますから。」
淡々とした物言いが俺がそんなくだらないことで怒るわけないだろという気持ちを表している。
心底嫌そうだな、なんて思いながら会話が長くなりそうなのでしおりを挟んで本を閉じる。
「まー、そういうことにしといても良いけど。」
緑川くんはこれ以上の追求は良くないと思ったのか、含みのある笑みを浮かべながらあっさりと会話を切り上げた。
「煌の言う通りだよ、白雪ちゃん。ため息をついたら幸せが逃げちゃうよー?」
青柳くんの肩に手を乗っけながら、桃瀬(ももせ) 玲央(れお)くんはニコッと可愛らしい笑顔を浮かべる。
桃瀬くんは女の私からみてもすごく可愛い顔立ちをしていると思う。
目が大きくて、緩いカーブのかけられた髪は、柔らかい雰囲気を後押ししている。
サイズの大きめのカーディガンをゆったりと着こなし、まだ幼さが残るあどけない顔立ちで守ってあげたい感じの男子だ。
これは女子が好きそうだなぁなんて思いながら、どう返答しようかと思考を巡らせる。
「……集中できないから、静かしにて。」
とここで私の斜め前に座っている橙山(とおやま) 奏真(そうま)くんに先程よりも幾分か低い声で注意される。
「はーい!」
元気に手をあげて答える桃瀬くん。
「ごめん、邪魔しちゃったね。」
笑顔で謝る緑川くん。
青柳くんは無言のまま眼鏡をクイッと上げると、参考書に目を落とす。
3人の声と行動はほぼ同時で、先ほどまでの賑やかさが嘘の様だ。
まるで鶴の一声。
そんなことを思いながら、私も本の世界へと戻ることにしたのだった。
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