社長、社内恋愛は禁止のはずですが
そして私は、誰にも見られないように社長室を出た。

胸の奥はまだ温かい。けれど足取りは早い。――誰かに気づかれたら大変だから。

エレベーターのボタンを押し、そっと深呼吸をした瞬間だった。

「お疲れ様です。」

背後から声がして、振り返ると岸本さんが立っていた。

「お、お疲れ様です、岸本さん……」

よりによって今……。

心臓が跳ねる音が自分にだけ響いている気がする。

そして最悪なことに、岸本さんも同じタイミングでエレベーターに乗ってきた。

狭い空間。沈黙。バッグをぎゅっと抱きしめる。

「……そのバッグ、社長からですか?」

不意に投げかけられた言葉に、息が止まった。

「えっ……」

視線がぶつかる。岸本さんの瞳は、ただの好奇心じゃない。

探るような、突き刺さるような鋭さだった。
< 149 / 273 >

この作品をシェア

pagetop