社長、社内恋愛は禁止のはずですが
だがその瞬間、エレベーターがちょうど一階に到着し、乾いた音と共にドアが開いた。

「また今度、お話しましょう。」

岸本さんはそう言い残し、軽やかにエレベーターを降りて行った。

私も続いて外に出たけれど、とても一緒に歩ける気にはなれなかった。

背中を並べて歩く――そんな余裕なんて、今の私にはない。

腕に抱えたバッグが、やけに重く感じる。

直哉さんが、恋人として贈ってくれた証。

本当はすぐにでも肩に掛けて、自慢したいくらい嬉しい。

でも……ダメだ。

岸本さんにバレた。

もう会社で堂々と使うなんてできない。

「ごめんなさい、直哉さん……」

誰にも聞こえないように小さく呟きながら、私はバッグを胸に抱きしめた。

せめて、この温もりだけは隠したくない。

秘密の恋だからこそ、余計に愛おしい――その想いが、胸の奥にじんと広がっていった。
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