社長、社内恋愛は禁止のはずですが
篠宮部長の低く落ち着いた声に、二人の表情が一気に明るくなる。

「いえ、部長のおかげです。」

誇らしげに答えるその声は、達成感に満ちていた。

胸がきゅっと縮んだ。

私が社長案件に気を取られている間、二人には何一つ教えられなかったのに。

本来なら私が導くべき仕事を、部長が鮮やかに仕上げてしまった――。

喜びよりも、悔しさと情けなさが先に込み上げてくる。

「水城さん。」

廊下を歩きかけた私を、篠宮部長の声が鋭く引き止めた。

「社長案件、上手く行ってる?」

振り返れば、相変わらず落ち着いた目。

見透かすような視線が、胸の奥をざわつかせる。

「はい。」

声が上ずらないように必死だった。

どうしても、この人だけには頼りたくない。

それは部下として間違っているのかもしれない。

それでも、意地だけは譲れなかった。
< 182 / 273 >

この作品をシェア

pagetop