社長、社内恋愛は禁止のはずですが
「……それもそうね。」

篠宮部長は、冷ややかに微笑むと、踵を返して去っていった。

その背中を見送りながら、唇を噛む。

どうして私は、いつもこんなふうにしか言えないのだろう。

耐えていた涙が、こみ上げるように頬を伝った。

人気のない給湯室で、私は小さく嗚咽を漏らした。

強がりの鎧が外れていく音が、自分の耳にも聞こえる気がした。

そのとき――

ドアが軋む音とともに、直哉さんが入ってきた。

驚いたように目を見開き、すぐに私の涙に気づいたのだ。

「どうした、遥香。」

振り返る間もなく、直哉さんが私を抱きしめてくれた。

広い背中と腕に包まれた瞬間、張りつめていた心がほどけていく。

この温もりは私だけのもの――そう信じたいのに、心の奥に影が差す。
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