社長、社内恋愛は禁止のはずですが
「いらっしゃいませ。」

落ち着いた雰囲気の店員さんが、にこやかに応対してくれた。

ショーケースには、数えきれないほどの腕時計が整然と並び、その輝きに圧倒される。

「ご自分用でしょうか。」

そう問われて、胸がドキンと鳴った。

こういう時って、素直に言った方がいいのかな。

私は指先をぎゅっと握りしめて答えた。

「ええっと、男性用を……」

店員さんは、にっこりと微笑んだ。

「恋人さんにですか?」

「……はい。」

声が小さくなってしまった。

もうアラサーだというのに、恋人への贈り物を口にするだけで、こんなに恥ずかしくなるなんて。

私はどこまで初心のままでいるんだろう。

「でしたら、こちらなどはいかがでしょう。」

案内されたのは、シンプルでありながら存在感のあるデザインの時計だった。
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