社長、社内恋愛は禁止のはずですが
それは文字盤がネイビーのシンプルな時計だった。

値段は五万円。私の手の届く範囲だ。

けれど御曹司である直哉さんが、こんな時計を本当に使ってくれるだろうか。

彼の腕には、もっと華やかで一流のものが似合う気がする。

私の夢は、彼に時計を贈ること。

だけど、せっかくなら彼の人生に相応しい特別な一本であってほしい。

「悩んでいらっしゃいますね。」

不意に声を掛けられて振り向くと、笑顔の店員さんがいた。

「そうですね。何でお悩みですか?」

うーん、この店員さんだったら、特別な一品って分かってくれるかな。

「実は私、恋人に時計を贈るのが夢だったんです。」

「まあ、素敵な夢ですね。」

店員さんにそう言われると、胸の奥が温かくなる。

誉められたことで気持ちがぐっと乗った。
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