社長、社内恋愛は禁止のはずですが
「……やっぱり無理です。」

時計から視線を外し、諦めかけたその時、店員さんが静かに囁いた。

「特別なお客様にだけのご案内ですが……こちら、展示品に限り少しお値引きができます。」

差し出されたメモには“98万円”と書かれていた。

私は目を丸くした。まだ高い。

それでも……頭の中で、通帳に眠る貯金額が浮かぶ。

あれは、もしもの時の為にとコツコツ貯めてきたお金。

だけど、今しかない。

直哉さんに時計を贈る夢を叶えられるのは、この瞬間だけかもしれない。

胸がドクドクと高鳴る。

「……お願いします。これ、ください。」

震える声で告げると、店員さんの表情がふわりと和らいだ。

カードを差し出す手が、少し震えている。

高すぎる買い物。けれど後悔はない。

大切な人に贈りたい。

直哉さんの腕に、この時計が似合う姿を想像しただけで、胸がいっぱいになる。
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