社長、社内恋愛は禁止のはずですが
「あー、買ってしまった……」

思わず口に出してしまう。

腕に提げた袋には、堂々たるロレックスのロゴ。

通りを歩くたびに人の視線を感じるようで、誇らしいけど、同時に胸がザワついた。

「ははは……また一から貯金の積み直しだな。」

ため息まじりに笑いながら空を見上げると、青空がやけに清々しい。

大金を使ったはずなのに、不思議と後悔はない。

だって——直哉さんへの特別な贈り物だから。

その時だった。

「遥香。」

背筋を駆け抜けるような、聞き慣れた声。

ぎょっとして辺りを見回す。

いや、こんなタイミングで⁉ やばい、見つかった……!

必死に視線を泳がせていると、不意に肩をトントンと叩かれた。

「ぎゃっ!」

反射的に飛び上がる。振り返ると、そこにはスーツ姿の直哉さん。

驚きと微笑みを浮かべたその顔に、心臓が早鐘を打つ。

「こんな場所で会うなんて、奇遇だな。」

ロレックスの袋を握る手に力が入る。

よりによって、この瞬間に……!
< 208 / 273 >

この作品をシェア

pagetop