社長、社内恋愛は禁止のはずですが
「私は誘ってないな。」

「私も。」

返ってきた答えに、胸が冷たくなった。――やっぱり。誰も私を誘っていなかった。

「まあ、水城さんは仕事だけの人だから。」

冷ややかな声が響く。岸本さんだった。

「社長案件、任されているからって、いい気になってるのよ。どう? 皆、水城さんの案件、やりたがらないじゃない。」

ズキッと胸が痛む。喉の奥がぎゅっと詰まって、声が出なかった。

必死で頑張っているだけなのに――どうして。

「社長に特別視されてるからって、図に乗ってるんじゃないわよ。」

言い捨てるように吐き出して、岸本さんは踵を返した。

他のメンバーもぞろぞろとオフィスを離れていく。

手のひらに残る温もりを思い出す。

――さっきまで社長が握っていてくれた手の感触。

それだけが、今の私をかろうじて支えていた。
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