大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。
第197話 言葉が来る前の、同じ時間
公園の奥で、足音がした。
砂利を踏む、控えめな音。
朱里は振り向かなかった。
振り向いたら、今まで積み上げてきた覚悟が、少し崩れそうだったから。
「……待たせた?」
嵩の声が、背中に届く。
近い。
でも、触れない距離。
「いえ。今、着いたところです」
嘘ではない。
ほんの少し、早く来ただけ。
嵩は朱里の横に立ち、同じように空を見上げた。
視線が重ならないのが、ありがたかった。
二人の間に、静かな時間が流れる。
夜の公園は、思ったより明るい。
街灯の光が、影を長く伸ばしている。
「……ここ、覚えてた?」
嵩が、ぽつりと言った。
朱里は、少しだけ笑う。
「忘れるわけないです。
私が一番、格好悪かった場所ですから」
「俺は……一番、何も言えなかった場所だ」
その言葉に、朱里の胸が小さく鳴った。
(ああ、同じだったんだ)
どちらも、完璧じゃなかった。
だから、この場所が残っている。
嵩はベンチに腰を下ろし、朱里も少し間を空けて座る。
距離は、昨日と同じくらい。
でも、意味は違う。
「今日さ」
嵩が、前を向いたまま続ける。
「すぐに答えが出る話じゃないと思う。
だから……途中で止めてもいい」
朱里は、驚いて彼を見る。
嵩は、笑っていなかった。
でも、逃げてもいなかった。
「止めるなら、止めるって言っていい。
聞きたくないなら、それも……ちゃんと尊重する」
それは、優しさだった。
同時に、覚悟だった。
朱里は、膝の上で手を組む。
(聞く側って、こんなに勇気がいるんだ)
でも。
「……止めません」
声が、思ったより落ち着いていた。
「全部じゃなくていいなら。
今、話せる分だけでいいなら」
嵩は、ほんの少しだけ、目を細めた。
「ありがとう」
その一言で、空気が変わる。
重さはある。
でも、押しつぶす重さじゃない。
嵩は、息を吸う。
深く。
ゆっくり。
言葉が来る。
朱里は、それを察して、視線を落とした。
(来る)
転勤。
選択。
離れるかもしれない未来。
全部を一気に受け取る準備は、まだできていない。
それでも──
逃げない。
嵩が、口を開いた。
「……実は」
その最初の二文字が、夜に落ちる。
朱里は、ぎゅっと目を閉じた。
そして、開く。
“言われる側”の時間が、
いま、静かに始まった。
砂利を踏む、控えめな音。
朱里は振り向かなかった。
振り向いたら、今まで積み上げてきた覚悟が、少し崩れそうだったから。
「……待たせた?」
嵩の声が、背中に届く。
近い。
でも、触れない距離。
「いえ。今、着いたところです」
嘘ではない。
ほんの少し、早く来ただけ。
嵩は朱里の横に立ち、同じように空を見上げた。
視線が重ならないのが、ありがたかった。
二人の間に、静かな時間が流れる。
夜の公園は、思ったより明るい。
街灯の光が、影を長く伸ばしている。
「……ここ、覚えてた?」
嵩が、ぽつりと言った。
朱里は、少しだけ笑う。
「忘れるわけないです。
私が一番、格好悪かった場所ですから」
「俺は……一番、何も言えなかった場所だ」
その言葉に、朱里の胸が小さく鳴った。
(ああ、同じだったんだ)
どちらも、完璧じゃなかった。
だから、この場所が残っている。
嵩はベンチに腰を下ろし、朱里も少し間を空けて座る。
距離は、昨日と同じくらい。
でも、意味は違う。
「今日さ」
嵩が、前を向いたまま続ける。
「すぐに答えが出る話じゃないと思う。
だから……途中で止めてもいい」
朱里は、驚いて彼を見る。
嵩は、笑っていなかった。
でも、逃げてもいなかった。
「止めるなら、止めるって言っていい。
聞きたくないなら、それも……ちゃんと尊重する」
それは、優しさだった。
同時に、覚悟だった。
朱里は、膝の上で手を組む。
(聞く側って、こんなに勇気がいるんだ)
でも。
「……止めません」
声が、思ったより落ち着いていた。
「全部じゃなくていいなら。
今、話せる分だけでいいなら」
嵩は、ほんの少しだけ、目を細めた。
「ありがとう」
その一言で、空気が変わる。
重さはある。
でも、押しつぶす重さじゃない。
嵩は、息を吸う。
深く。
ゆっくり。
言葉が来る。
朱里は、それを察して、視線を落とした。
(来る)
転勤。
選択。
離れるかもしれない未来。
全部を一気に受け取る準備は、まだできていない。
それでも──
逃げない。
嵩が、口を開いた。
「……実は」
その最初の二文字が、夜に落ちる。
朱里は、ぎゅっと目を閉じた。
そして、開く。
“言われる側”の時間が、
いま、静かに始まった。