船瀬さんの彼女、村井さん。
聞きたくないことを聞いてしまったけど、同期というだけで特別仲が良いわけではない。気にも留めず、聞き流そうとした。
飲みにくいビールを、煽って飲み切った。船瀬さんも缶を空けて、冷蔵庫から二本目を出そうとしたけど、それを遮るように船瀬さんの手を掴んだ。
「…ん?」
「あ、いや…」
一日だけで良いから、村井さんの体になれたことを利用したい。押谷の中の悪い欲が出てきてしまった。
でもすぐにダメだと気づき、引き止めた後どうしようか考えておらず、おどおど。
「何ー?どうしたの。もみじからって初めてじゃない?」
「あ、別にそういうんじゃなくて」
「照れなくて良いから」
伝わらなくて良いのに、ご丁寧に伝わってしまった。私の悪い欲が利用されてしまった。
拒否しようとするのに体は受け入れたくて、抱きしめられた体全体がカッと熱くなる。
「船瀬くん…」
「だから。友真だって。そう呼んでって言ったじゃん」
「友、真…くん」
船瀬くんじゃなかった。村井さんがもみじと呼ばれていたように、船瀬さんも下の名前だった。しかもこういう時限定っぽい。
抱きしめられたまま、肩に顔を埋めて名前を呼ぶと満足したようで、何も言わず私の頭に手を置いた。