船瀬さんの彼女、村井さん。
船瀬さんの服の胸元をグッと掴むと、優しく床に押し倒され、唇が離れると船瀬さんの顔が見える。
「…好き」
船瀬さんの突然の言葉にドキッとして、でも少しだけ口角を上げて微笑むと、また唇が重なった。
もうそこからは、記憶が曖昧。どうなったのかも覚えていない。知らぬ間に眠っていて、カーテンを閉めていても漏れてくる光が眩しくて目が覚めた。
一瞬村井さんになった、あの気分の変わり方は経験したことがなかった。自分で制御できない、押谷としての感覚はあるのに、今の私は村井さんだと感じた。
説明しようとしても難しいけど、昨日は幸せだと感じたことに間違いはない。
どこで眠ったのか思い出せないけど、目が覚めて自分が居る場所は、自宅。押谷の家。自分の家だ。
自分の足で押谷の家まで帰ったんだろうか。思い出せないから、いくら考えても答えは出ない。
自分の両手のひらをまじまじと見つめると、押谷の手。村井さんじゃなくなっていた。
戻れたんだ。そう思うのに、昨日のことを思い出して、これから会社に行くのに重たい気持ちが肩に乗っかった。