船瀬さんの彼女、村井さん。
誰もいないオフィスをもう一度見渡し、部長を視界に入れる。頼れる部長。
たまに理解できない行動をして部下を困らせる人だけど、責任は全部取るから思う存分間違えろというスタンスの上司。この人がいるから、私も多少無理がある内容のプレゼンができた。
現実にしなければいけない重圧はあるけど、周りには手を差し伸べてくれる同期、先輩、後輩が沢山いる。もっと頼れば良いのかと、頭の中にすとんとその考えが落ちてきた。
今まで頼ることを選択肢に入れなかった。だから船瀬さんにも、あんな言われ方をしたんだ。〝見下されてる気がする〟
それもそのはずだ。助けてほしいの一言が出ていれば、私も船瀬さんと村井さんと、もっと上手くやれていたのかも。でも助けてってどう言えば良い?どのタイミングで?
「部長。私、もっと頑張ります」
「おう。でも無理はするな。押谷さんは突っ走るところがあるから。もっと周りを見て、周りを巻き込むくらいの性格になっても良いと思う」
「周りを巻き込む…。頼ると巻き込むは別物ですか?」
「違うんじゃないか?頼るは相手のペースに合わせるけど、巻き込むは自分のペースに周りがついてきてもらう方だろ?押谷さんは頼るのは下手だけど、巻き込むのは上手いと思うよ」