船瀬さんの彼女、村井さん。
言葉にする前に最悪な考えだけが巡って、昨日のことは私だけの脳内におさめておきたいと強く願う。
「でもね、あんまり覚えてないんだよね。多分楽しかったんだとは思うんだけど…」
村井さんの返事に、胸を撫で下ろした。どうやら私と入れ替わったせいで、記憶が曖昧らしい。
「どこでご飯食べたの?」
「どこで食べたのか、何を食べたのか。そもそも船瀬くんと会ってたのかも分かんないの」
「不思議だね。昨日の夜だけ覚えてないなんて」
「そうなの。でも起きたら船瀬くんの家でさ。机に空き缶があったから、飲みすぎたのかも」
どうか、そのまま思い出さずにいてね。
〝そっか。〟と軽い相槌を入れて自分の席に戻ろうとして、本来の目的を忘れていた。自分の机に戻りかけた足を村井さんに向けて、もう一度話しかける。
「実は、村井さんにお願いがあってね…。船瀬さんにもなんだけど」
「私と船瀬くんに?船瀬くん!押谷さんが呼んでる」
村井さんに呼ばれてこちらに近づいてくる昨日間近で見た顔に、何事もなかったように微妙に口角を上げて挨拶した。〝おう〟なんて、軽い口調で返されたけど、それは無視をする。