船瀬さんの彼女、村井さん。
選ばれたのは、私のはず。寝ぼけてるのは船瀬さんの方だ。
笑って自分の席に戻る船瀬さんを、首を傾げて見送り、自分の席に視線を戻すと、強い違和感を覚えた。
私の席じゃない。片付けたはずの書類が机に散らばっているし、見覚えのない書類もある。それに、席から見る景色も違う。
私、違う人の席で寝てたの?それならその人が帰ってくるまでに自分の席に戻らないと。
右、左と見て、席を立とうとした時、左側に居るはずのない人が見えた。
私が私の席に座って、仕事をしていたのだ。
「私…、じゃあ私は?」
本当に寝ぼけているのか。
頭の中で私、私と連呼して、自分がどうなっているのか、必死に理解しようとした。
手を見て、服を見て。やっぱり私じゃない。押谷じゃない。じゃあ私は、誰?
座っている席からすると、村井さんになる。プレゼンが選ばれなくてショックだったという船瀬さんの話も合ってくる。
とりあえず、今の状況を理解したくて、自分に話しかけてみることにした。
「…ねぇ」
「村井さん。どうしたの?」
「…私、村井だよね」
「え?うん…。村井さんだよ」
「あなたは?」
「私は…、押谷、だけど」
「そうだよね。ごめん、変なこと聞いて」