内部監査部室長は恋愛隠蔽体質です
 プライベートを探る口調に眉を寄せつつ、時計を翳す。ブランド品に明るくないわたしでも認知する有名モデル、室長はそれを嫌味なく身に着けている。ヘルメットを着用しルックスへマイナス補正が掛かるが、引いて余る見栄えの持ち主だ。
 わたしも室長の顔立ちで生まれてきたなら浮気の心配などしないかもしれない。

「……そう、贈り物かもしれません。大切な品です」
 和らいだ表情が誰からのプレゼントであるか物語る。
 元課長の事を突かれ、同等に痛がりそうな部分へ言及しようとしたものの、こんな顔を見せられると疑惑へこれ以上踏み込むのを躊躇う。

「松村課長? どうかされました?」
「そろそろ頃合いじゃないです? 消火器は本物じゃなく水が入った物を使用するんですよね?」

 意識を訓練へ戻して消火器のピンの抜き方やホースの持ち方をイメージする。室長の抱える懸念材料と距離を取り、火の粉が降り掛かってこないように。
(カチンと頭に来る度、あの話を引き合いに出すのはやめよう)
 そう思っても心の中で燻り続けてしまうのだった。
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