内部監査部室長は恋愛隠蔽体質です


「はい、訓練を終了します」
 気付けばヘルメット内が蒸す程、集中していた。室長の声で額を拭おうとするとハンカチが差し出される。

「ありがとうございます。自分のがありますので」
 遠慮をしてパンツのポケットを漁った。と、ヒラヒラ一枚が落ちてくる。

「……あぁ、領収書ですね。どうぞ」
 すかさず拾い上げ、改めて差し出す。久しぶりに履いたパンツにはコーヒー豆の購入履歴が残されたままだった。
「コーヒー、お好きです?」
「好きというよりコーヒーメーカーがあるので」
 好きか嫌いかで言えばいいのにはぐらかす。
「お手入れも面倒なので手放したいんですが、なかなか思い切れないんですよね」
 まるで元彼への気持ちを言い表しているみたい。あちらはとっくにわたしの事など忘れているだろうに。

「それでしたらお茶でもどうでしょう?」
「はい? これから?」
「えぇ」
 それは唐突な誘いだった。ふざけている様子はないが、お茶をする理由に皆目見当がつかない。

「コーヒーの話をしていたら飲みたくなりました」
「正確に言うとコーヒーメーカーの話をしただけです」
「そう邪険にしないで下さい。実は食事の予定をキャンセルされてしまったのです」
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