先生、迎えに来ました
7.迎えに来ました
高瀬が出ていった。
あんな高瀬を見るのは初めてだった。
無音で流れていた映画が終わり、画面が真っ黒になった。
リビングが暗闇に包まれる。
廊下の向こうで、玄関のドアが閉まる音が聞こえた。
ひまりの目から涙がこぼれた。
一つこぼれると、とめどなく溢れだした。
高瀬はひまりに愛がないことに気づき、怒って出ていった。
きっと今度こそ、諦めてくれるに違いない。
ひまりの望みは叶ったのだ。
叶ったはずなのに、なぜこんなにも辛く悲しいのか。
胸が痛い。息ができない。苦しい。
ひまりは声を上げて泣いた。
*
夜中の幹線道路をただひたすら車で走った。
高瀬は頭の中を空にし、心を無にしたかった。
気の済むまで走り続け、マンションの駐車場に戻ったが、まだ彼女のいる家に帰る気にはなれない。
シートに深く沈み込み、ようやく冷静さを取り戻した脳で、先ほどの出来事を俯瞰する。
高瀬は自分の怒りの正体をやっと認める気になった。
「俺は、彼女に愛されることを望んでる……」
彼女の笑顔を守れるのなら、愛されなくても構わないと思っていたはずだ。
それなのに。
キスを求められたとき、ようやく自分の想いが彼女に届いたと思った。
キスに彼女が応えたとき、彼女からも愛されているように感じた。
しかし、そうではなかった。
彼女は愛からセックスに臨んだわけではなかったし、高瀬と愛を交わすことを望んではいなかった。
その事実が、高瀬を絶望させると同時に、怒らせた。
勝手に期待して、勝手に失望して、挙句腹を立てるなんて愚かしいにもほどがある。
そんな自分とは、経営者として部下を統率していく中で、決別したはずだった。
彼女の真意はわからないが、もしかしたら彼女なりに距離を縮めようとしたのかもしれない。
触れ合うことで、なにかを確かめたかったのかもしれない。
とにかく、彼女ときちんと話をする必要がある。
高瀬はようやく車から降りると、夜気を吸い込んだ。
*
ひまりはニャン太を抱いて、ベッドで丸くなった。
ひとまず涙は止まったが、胸が苦しいのは変わらなかった。
あれから数時間経ったが、高瀬は帰ってこない。
もう帰ることはないのかもしれないと想像し、また涙が出そうになる。
と、その時、玄関のドアが開閉する音が聞こえた。
鍵をかける音、高瀬が廊下を静かに歩く音、部屋のドアが開いて閉まる音。
いつも当然のように聞いていたそれらの音が、ひまりを少しだけ安心させてくれた。
泣き疲れたひまりは、いつの間にか眠っていた。
あんな高瀬を見るのは初めてだった。
無音で流れていた映画が終わり、画面が真っ黒になった。
リビングが暗闇に包まれる。
廊下の向こうで、玄関のドアが閉まる音が聞こえた。
ひまりの目から涙がこぼれた。
一つこぼれると、とめどなく溢れだした。
高瀬はひまりに愛がないことに気づき、怒って出ていった。
きっと今度こそ、諦めてくれるに違いない。
ひまりの望みは叶ったのだ。
叶ったはずなのに、なぜこんなにも辛く悲しいのか。
胸が痛い。息ができない。苦しい。
ひまりは声を上げて泣いた。
*
夜中の幹線道路をただひたすら車で走った。
高瀬は頭の中を空にし、心を無にしたかった。
気の済むまで走り続け、マンションの駐車場に戻ったが、まだ彼女のいる家に帰る気にはなれない。
シートに深く沈み込み、ようやく冷静さを取り戻した脳で、先ほどの出来事を俯瞰する。
高瀬は自分の怒りの正体をやっと認める気になった。
「俺は、彼女に愛されることを望んでる……」
彼女の笑顔を守れるのなら、愛されなくても構わないと思っていたはずだ。
それなのに。
キスを求められたとき、ようやく自分の想いが彼女に届いたと思った。
キスに彼女が応えたとき、彼女からも愛されているように感じた。
しかし、そうではなかった。
彼女は愛からセックスに臨んだわけではなかったし、高瀬と愛を交わすことを望んではいなかった。
その事実が、高瀬を絶望させると同時に、怒らせた。
勝手に期待して、勝手に失望して、挙句腹を立てるなんて愚かしいにもほどがある。
そんな自分とは、経営者として部下を統率していく中で、決別したはずだった。
彼女の真意はわからないが、もしかしたら彼女なりに距離を縮めようとしたのかもしれない。
触れ合うことで、なにかを確かめたかったのかもしれない。
とにかく、彼女ときちんと話をする必要がある。
高瀬はようやく車から降りると、夜気を吸い込んだ。
*
ひまりはニャン太を抱いて、ベッドで丸くなった。
ひとまず涙は止まったが、胸が苦しいのは変わらなかった。
あれから数時間経ったが、高瀬は帰ってこない。
もう帰ることはないのかもしれないと想像し、また涙が出そうになる。
と、その時、玄関のドアが開閉する音が聞こえた。
鍵をかける音、高瀬が廊下を静かに歩く音、部屋のドアが開いて閉まる音。
いつも当然のように聞いていたそれらの音が、ひまりを少しだけ安心させてくれた。
泣き疲れたひまりは、いつの間にか眠っていた。