先生、迎えに来ました
高瀬は近くの公園に向かった。
会社を出たひまりが、公園のベンチにいると連絡を受けたからだ。
公園の入り口で、よく見知った顔と落ち合う。
「ありがとうございました。もう大丈夫です」
探偵事務所のスタッフは、丁寧にお辞儀するとその場を去った。
その姿を見送って、高瀬は公園に足を踏み入れる。
少し進むと、ベンチに座り、うなだれている彼女が見えた。
家に帰り辛いのだろう。
その姿に、高瀬は昔の自分を重ねた。
塾の校舎に入ったはいいものの、教室に行く気にはなれず、壁に貼られた掲示物を見ているふりをしていた自分だ。
高瀬は、授業開始の時間が過ぎても動けなかった。
そんなとき、声をかけられた。
「高瀬蓮くん、だよね?」
声のした方を見ると、好みの顔立ちの女性が立っていた。
「迎えに来たよ。一緒に行こう」
そう言って彼女は高瀬に笑顔を向けた。
一目惚れだった。
*
ひまりは本気で誰かを愛したことがない。
だから、いま自分の中にあるこの気持ちが愛なのかよくわからない。
ただ、これまで振られても泣くことのなかった自分が、まだ振られてもいないのに声を上げて泣いてしまった。
高瀬の笑顔や穏やかな声、手のぬくもり、優しいキスを思い出して、いまも胸を焦がしている。
そして、高瀬と離れたくないと強く思い、昨夜のやり直しができたらと切に願っている――。
先日、同僚に言われた言葉がよみがえった。
『ひまりの悪い癖。頭で考え過ぎ』
頭で理解できなくても、ただの予感を信じてもいいのかもしれない。
そこまで考えたとき、俯いて狭まった視界に、誰かの足が入った。
この靴には見覚えがある。
顔を上げると、高瀬が立っていた。
ひまりと目が合うと、高瀬は左手を差し出し、いつもの愛にあふれた笑顔で言った。
「ひまりさん、迎えに来ました。一緒に帰りましょう」
その手を取って立ち上がると、ひまりはそのまま高瀬に抱きついた。
首に腕を回し、精一杯背伸びをして、高瀬の耳に口を近づける。
今の自分の気持ちを高瀬に伝えるのに、これ以上相応しい言葉はないと思った。
「愛してる」
高瀬が息を呑むのがわかった。
向かい合って見上げたその顔は、切なげに歪んでいる。
高瀬の表情に、ひまりも泣きそうになった。
高瀬の腕が、ひまりを抱きしめる。
そして、自然と重なった唇を、ひまりは心から受け入れた。
誰もいないのをいいことに、二人は心ゆくまでお互いの唇を味わった。
会社を出たひまりが、公園のベンチにいると連絡を受けたからだ。
公園の入り口で、よく見知った顔と落ち合う。
「ありがとうございました。もう大丈夫です」
探偵事務所のスタッフは、丁寧にお辞儀するとその場を去った。
その姿を見送って、高瀬は公園に足を踏み入れる。
少し進むと、ベンチに座り、うなだれている彼女が見えた。
家に帰り辛いのだろう。
その姿に、高瀬は昔の自分を重ねた。
塾の校舎に入ったはいいものの、教室に行く気にはなれず、壁に貼られた掲示物を見ているふりをしていた自分だ。
高瀬は、授業開始の時間が過ぎても動けなかった。
そんなとき、声をかけられた。
「高瀬蓮くん、だよね?」
声のした方を見ると、好みの顔立ちの女性が立っていた。
「迎えに来たよ。一緒に行こう」
そう言って彼女は高瀬に笑顔を向けた。
一目惚れだった。
*
ひまりは本気で誰かを愛したことがない。
だから、いま自分の中にあるこの気持ちが愛なのかよくわからない。
ただ、これまで振られても泣くことのなかった自分が、まだ振られてもいないのに声を上げて泣いてしまった。
高瀬の笑顔や穏やかな声、手のぬくもり、優しいキスを思い出して、いまも胸を焦がしている。
そして、高瀬と離れたくないと強く思い、昨夜のやり直しができたらと切に願っている――。
先日、同僚に言われた言葉がよみがえった。
『ひまりの悪い癖。頭で考え過ぎ』
頭で理解できなくても、ただの予感を信じてもいいのかもしれない。
そこまで考えたとき、俯いて狭まった視界に、誰かの足が入った。
この靴には見覚えがある。
顔を上げると、高瀬が立っていた。
ひまりと目が合うと、高瀬は左手を差し出し、いつもの愛にあふれた笑顔で言った。
「ひまりさん、迎えに来ました。一緒に帰りましょう」
その手を取って立ち上がると、ひまりはそのまま高瀬に抱きついた。
首に腕を回し、精一杯背伸びをして、高瀬の耳に口を近づける。
今の自分の気持ちを高瀬に伝えるのに、これ以上相応しい言葉はないと思った。
「愛してる」
高瀬が息を呑むのがわかった。
向かい合って見上げたその顔は、切なげに歪んでいる。
高瀬の表情に、ひまりも泣きそうになった。
高瀬の腕が、ひまりを抱きしめる。
そして、自然と重なった唇を、ひまりは心から受け入れた。
誰もいないのをいいことに、二人は心ゆくまでお互いの唇を味わった。