先生、迎えに来ました
今日から高瀬と一緒に住むマンションに着いた。
正確な数字はわからないが、下から見上げた感じでは、二十階以上ありそうな高層マンションだった。
エレベーターは四階で停止した。
あまり高層が好きではないひまりはほっとした。
「ここが僕らの家です。どうぞ」
高瀬がドアを開けて、ひまりを中に通す。
「お邪魔します。……あ」
思わず言ってしまった、ひまりの場違いな言葉に、高瀬が笑った。
「ひまりさんの家ですから」
「そうだよね」
ひまりも照れ笑いで返し、玄関に上がった。
「ここが、ひまりさんの部屋です」
案内された部屋は六帖で、ひまりの一人暮らしの部屋と変わらない広さだったが、一帖程のウォークインクローゼットは、ひまりの部屋にはなかった。
部屋にはすでに、ベッドとベッドサイドテーブル、間接照明が置かれていた。
レースカーテン越しに、太陽の光が差し込んでいる。南向きのようだ。
「ひまりさんの隣の部屋を僕の仕事部屋にしてます。さらにその隣が僕の寝室です」
つまり、南に面して三部屋が横並びになっている間取りだった。
すべての居室が南向きだなんて、贅沢だとひまりは思った。
「ひまりさんの部屋に僕が勝手に入ることはありませんが、ひまりさんはいつでも僕の部屋に入ってきていいですからね」
高瀬が笑顔でひまりに言った。
「絶対に入らないから安心して」
「ざーんねん」
応酬して笑顔で答えたひまりに、高瀬は肩を上げておどけてみせた。
「で、こっちがリビングです」
「すごーい! ひろーい! 窓が大きいー!」
リビングは、広い部屋の半分が、大きな窓になっていた。
カーテンが開け放たれており、眺めのいい景色が広がっている。
リビングも南向きのため、太陽の光が差し込み部屋を明るく見せていた。
ダイニングテーブルとソファーとテレビが置かれても、まだ広く感じる空間に、ひまりは感動した。
ひまりは目の前の窓に駆け寄った。
眼下に広がる景色を見て、感嘆のため息をつく。
高瀬がひまりの横に立った。
「気に入ってもらえましたか?」
「うん、すっごく」
「よかった」
嬉しそうに答えたひまりに、高瀬は安堵の笑みを浮かべた。
「キッチンも広いですよ」
高瀬に促されてキッチンを見に行くと、確かに広かった。
対面の、しかもセパレートタイプで、コンロはもちろん三口だ。
冷蔵庫も立派なものが置かれている。
「料理好きにはたまらない立派なキッチンだね」
ひまりは少し声のトーンを押さえて感想を述べた。
「ひまりさんも料理しますか?」
ここでひまりは当初の目的を思い出した。
幻滅ポイントアピールチャンスの到来である。
「実は……私、料理全然できないの。何回かチャレンジしてみたけど、元カレたちには不評だったし、私自身も料理好きじゃないから、全然上達しないんだよね。今は専ら外食かスーパーのお惣菜。女子力低いよね」
高瀬の反応を伺うべく、ひまりが高瀬を下から見上げると、その視線に気づいた高瀬が優雅に微笑んだ。
「全く問題ありません。ひまりさんが料理嫌いなのは、十二年前に聞いてましたから。朝も昼も夜も僕が作ります。希望があればお弁当も作りますよ。もちろん外食の気分のときは、いつでも食べに行きましょう」
「えー!」
想定外の反応に、ひまりは思わず声を上げた。
「だって、高瀬君は仕事で忙しいでしょ。それに、料理ができない女とか幻滅しない?」
「幻滅しないですし、ひまりさんの役に立つべく僕はオーナーになったんです。社長と違ってオーナーは時間の自由がきくんですよ。結構暇です」
「そんなあ。なんで幻滅しないの」
「幻滅してほしいんですか?」
「してほしい」
「無理ですね」
高瀬は笑顔でひまりの要望を一蹴した。
ひまりの作戦、その一手目は、見事に空振りに終わった。
正確な数字はわからないが、下から見上げた感じでは、二十階以上ありそうな高層マンションだった。
エレベーターは四階で停止した。
あまり高層が好きではないひまりはほっとした。
「ここが僕らの家です。どうぞ」
高瀬がドアを開けて、ひまりを中に通す。
「お邪魔します。……あ」
思わず言ってしまった、ひまりの場違いな言葉に、高瀬が笑った。
「ひまりさんの家ですから」
「そうだよね」
ひまりも照れ笑いで返し、玄関に上がった。
「ここが、ひまりさんの部屋です」
案内された部屋は六帖で、ひまりの一人暮らしの部屋と変わらない広さだったが、一帖程のウォークインクローゼットは、ひまりの部屋にはなかった。
部屋にはすでに、ベッドとベッドサイドテーブル、間接照明が置かれていた。
レースカーテン越しに、太陽の光が差し込んでいる。南向きのようだ。
「ひまりさんの隣の部屋を僕の仕事部屋にしてます。さらにその隣が僕の寝室です」
つまり、南に面して三部屋が横並びになっている間取りだった。
すべての居室が南向きだなんて、贅沢だとひまりは思った。
「ひまりさんの部屋に僕が勝手に入ることはありませんが、ひまりさんはいつでも僕の部屋に入ってきていいですからね」
高瀬が笑顔でひまりに言った。
「絶対に入らないから安心して」
「ざーんねん」
応酬して笑顔で答えたひまりに、高瀬は肩を上げておどけてみせた。
「で、こっちがリビングです」
「すごーい! ひろーい! 窓が大きいー!」
リビングは、広い部屋の半分が、大きな窓になっていた。
カーテンが開け放たれており、眺めのいい景色が広がっている。
リビングも南向きのため、太陽の光が差し込み部屋を明るく見せていた。
ダイニングテーブルとソファーとテレビが置かれても、まだ広く感じる空間に、ひまりは感動した。
ひまりは目の前の窓に駆け寄った。
眼下に広がる景色を見て、感嘆のため息をつく。
高瀬がひまりの横に立った。
「気に入ってもらえましたか?」
「うん、すっごく」
「よかった」
嬉しそうに答えたひまりに、高瀬は安堵の笑みを浮かべた。
「キッチンも広いですよ」
高瀬に促されてキッチンを見に行くと、確かに広かった。
対面の、しかもセパレートタイプで、コンロはもちろん三口だ。
冷蔵庫も立派なものが置かれている。
「料理好きにはたまらない立派なキッチンだね」
ひまりは少し声のトーンを押さえて感想を述べた。
「ひまりさんも料理しますか?」
ここでひまりは当初の目的を思い出した。
幻滅ポイントアピールチャンスの到来である。
「実は……私、料理全然できないの。何回かチャレンジしてみたけど、元カレたちには不評だったし、私自身も料理好きじゃないから、全然上達しないんだよね。今は専ら外食かスーパーのお惣菜。女子力低いよね」
高瀬の反応を伺うべく、ひまりが高瀬を下から見上げると、その視線に気づいた高瀬が優雅に微笑んだ。
「全く問題ありません。ひまりさんが料理嫌いなのは、十二年前に聞いてましたから。朝も昼も夜も僕が作ります。希望があればお弁当も作りますよ。もちろん外食の気分のときは、いつでも食べに行きましょう」
「えー!」
想定外の反応に、ひまりは思わず声を上げた。
「だって、高瀬君は仕事で忙しいでしょ。それに、料理ができない女とか幻滅しない?」
「幻滅しないですし、ひまりさんの役に立つべく僕はオーナーになったんです。社長と違ってオーナーは時間の自由がきくんですよ。結構暇です」
「そんなあ。なんで幻滅しないの」
「幻滅してほしいんですか?」
「してほしい」
「無理ですね」
高瀬は笑顔でひまりの要望を一蹴した。
ひまりの作戦、その一手目は、見事に空振りに終わった。