告発のメヌエット

第9話 志学

 
 翌朝、騎士団の兵士より、面会の申し出があった。
 カミルについての調査と、カミルの死因についての報告に来るとのことだった。

「トーマス、騎士団との面会は10時ごろにしてくれ。
 その間に子供たちを今度通う学校へ案内してほしい。
 今までとは違って、歩いて通うことになるだろうから、道を覚えてもらわないとな。」

「かしこまりました。ではそのように手配いたします。」

「それからサラも学校へ通うように手配をしてくれ。
 夏休みが終わればあの子にも学校で学んでもらおうと思ってな。
 いずれアリスの役に立つ人物になれるだろうから。」

「よろしいのですか?」

「なに、かまわんさ。子供たちにとってなじみの顔があると安心だろうから。
 何よりもサラにとっても悪い話ではあるまい。」

「お心遣い、感謝いたします。」

 孤児院出身のサラに、学校に行く機会を与えるなど、めったにある話ではなかった。
 平民の学校とはいっても、学校に通えるのは一部の裕福な家庭か、住み込みで働く子供たちが子息の付き人として一緒に通うなど、まだまだ限られていたからであった。

「では、サラも同行させます。道案内は小姓のエリックに勤めさせます。
 彼はあの学校を卒業しておりますので。」

「それが良いだろう。では頼んだぞ。」

「かしこまりました。」

 私はトーマスからこのことを聞いて、子供たちに出かける支度をするように伝えた。

 エリックとサラが学校まで案内してくれることを伝え、メアリーにも部屋に来てもらった。

「子供たちの服装なのだけれども、今までのドレスのような恰好では通えないわね。
 これからそんな恰好をしていたら、人さらいに狙ってくださいって、言っているようなものね。」

「そうですね。
 ではワンピースのエプロンドレスはいかがでしょうか。
 平民の子どもも着ておりますし、布地を選べばそれなりに映えますので。」

「そうね、それはいいわね、可愛いですし。」

「わかりました。カイルお坊ちゃまはいかがいたしますか。」

「白いシャツに茶色のズボン、あとは帽子ね。
 それならすぐに書けるから、夕方には作っておくわね。」

「よろしくおねがいします。」

 そう言ってメアリーは布地を選びに店舗へ向かった。

 子どもたちには普段着の中でも地味なものを選んで支度をさせた。

「お嬢様、おはようございます。蒸しタオルです。」

「ねぇサラ、今日一緒に学校へ行くことは、もう聞いているかしら?」

 私が声をかけると、

「はい、先ほどトーマス様から伺いました。今日はお嬢様たちのお供をすると。」

「いいえサラ、違うのよ。
 夏休みが終わったら、アリスたちと一緒に学校へ通うのよ。」

「ええ、そんな。私がお嬢様と学校に行けるのですか。」

 そう言って両手で顔を覆って泣いていた。
 平民の子どもたちにとって、学校へ通うことは一つのあこがれだった。

「そうよ、サラ。これからはおなじ学校に通うのよ。
 よろしくね。」

「僕も行くんだよ。」

「ええ、カイルお坊ちゃま、よろしくお願いします。」

「それでは朝食が済んだら呼びに来てちょうだい。」

「かしこまりました。」

 朝食が済み、自室で子供たちと過ごしていると、ドアをノックする音とともに、若い男性の声がした。

「失礼いたします。お初にお目にかかります。エリックでございます。」

 均整の取れた体つき。
 多少武術の心得はあるとは聞いたが、大したものだ。

「エリック、この子がアリスとカイルよ。
 今日はよろしくお願いしますね。」

「かしこまりました。学校までの道案内と護衛をさせていただきます。」

「ええ、よろしくね。ところで武術はいつ習ったの?」

「学校を卒業してから、騎士団に入り訓練をしました。
 そこで巡回警備隊の仕事をしているうちに、こちらで護衛のできる従者を探していると聞いたのです。」

「そう、それなら安心ね、どうか子供たちを守ってあげてね。」

「かしこまりました。」

「サラ、くれぐれも失礼のないようにな。」

 エリックとサラは同じ孤児院出身であり、エリックが学校に行けたのは、巡回警備隊への入隊を条件に、奨学生として抜擢されたからだ。
 騎士団の巡回警備を3年間勤めあげたという。

「もう、エリック兄さまったら。いつまでも子ども扱いして。」

「実際まだ子供だろ、しっかりお嬢様のお役に立つんだぞ。」

「任せておいて。」と少しいたずらっぽい表情で笑った。

 本当に仲の良い兄妹のように見えた。

「それでは、出かけてきますね。」

「行ってきます。」と言って元気に出かけていった。

 ねぇカミル。
 子供たちは元気に新しい生活になじもうとしているわよ。
 どうか見守っていてね。

 私は街に出かけていく子供たちの背中を見送っていた。
< 10 / 57 >

この作品をシェア

pagetop