告発のメヌエット
第17話 推論
午後10時、ハイマー商会の屋敷に到着した二人は早速父の元にやって来た。
私も父から話を聞いていたので、一緒に執務室で待っていた。
「ご主人様、ただいま戻りました。」
「よかった、二人とも無事なのね。
どう? 何か危ない目には合わなかったかしら。」
「ええ、大丈夫ですよ。
今日は噂話を集めた程度ですので。」
「二人とも、身元は明かさなかったろうな。」
「ええ、そこは抜かりありません。
いろいろと収穫がございました。」
「うむ、では聞こう。」
「実は……。」と話しかけたところで父が制止した。
メアリーがお茶を運んできたのだ。
この件は知る人が少ないに越したことはない。
「ありがとうメアリー、そこに置いておいて。
あとは自分たちでやります。
片づけは明日の朝でいいわ。」
「かしこまりました。」
メアリーが退出したのを見計らってトーマスが話を始めた。
「歓楽街の奥の通りに、とある有力者が牛耳る一角があり、そこでは貴族などを相手に大麻を使った接待をしているそうです。」
「それは本当か?」
「まだ私どもには確認できていないのですが、噂話をまとめると、どうやら間違いないようです。」
「ではカミル君も、そこでそのような接待を、受けていたということなのか?」
「確証はありませんが、何者かによってその店に連れて行かれたと考えるのが自然でしょう。
もともとカミル様にはそのような嗜好はなかったのでしょう?」
「ええ、酒は飲んでもそれ以外には。
タバコも吸いませんので。」
「ダイス先生の解剖の結果、胃の内容物に大麻特有のにおいがしたとあります。
飲食物に秘密があるのではないのでしょうか?」
「仮にそうであってもどうやって飲ませるのだ?
大麻の成分だけを?」
一同にはもちろん、日常的に大麻に触れる機会がないため、見当もつかず、言葉を失った。
「まあ良い、今日はここまで。
ここから先には我々には理解しがたい世界があるのだろう。」
暗にコレットにはかかわってほしくないという父の意志が感じられた。
「ご苦労だった。」と言って父は二人に金貨を一枚ずつ手渡した。
「旦那様、こんなに多くはもらえません。」
エリックは返そうとしたが、
「なに、危険手当だ。今後も情報収集を手伝ってもらうからな。」
「どうしてカミルはその日『接待』を受けることになったのでしょうか?
そもそものきっかけを掴まないといけないわね。」
「そうなりますな。今後も調査を続けるとしますか。」
「くれぐれも危険のないようにね。
特にエリックは子供たちの護衛をおねがいしているのですから。」
今日のところはこれでお開きとなった。
7月16日の事件が記載された日誌に書かれた言動、そして夫婦喧嘩をした19日の言動。
今までの彼からは考えられないことだった。
いつ私に手紙を書いたのか。カミルの死亡日。
今になって思えば不可解なことばかりだった。
帝都で暗躍する謎の組織、そこに「上」と呼ばれる存在があること。
何がきっかけでカミルが関わりを持ったのか、依然として多くの謎が残されている。
「ふうっ、なんだかわからなくなってきたわ。
私にはカミルの死の謎を知りたいという願望と、それから……。
私はどうしたいのだろう?」
子供たちの寝顔を眺めながら、私は静かに眠れぬ夜を過ごしていた。