告発のメヌエット
第18話 前進
8月も半ばを過ぎて、学校が始まる1週間前となった。
トーマスを通じて学校への入学は伝達済みだった。
あとは服装と学用品の確認をする。
アリスは新しい持ち物に名前を書いていた。
それからピアノの練習にも熱心に取り組んでいた。
先日のレッスンでようやく先生から、人前で演奏できるところまで達したと言われたのが、とてもうれしいらしい。
早速学校でピアノを弾いて見せるのだと張り切っていた。
カイルも学用品を通学用のバッグに入れたり出したりして、時々眺めて笑顔になっている。
学校に行くことを楽しみにしているのがわかった。
「お嬢様、失礼いたします。」
サラが部屋を訪れた。
朝食の後片付けが終わると、メアリーがサラの学習のために、仕事を融通してくれていた。
「さて、学校まであと一週間です。
カイルとサラはちゃんと字を覚えましたか?
それでは今日も言葉の練習です。
カイルは百科事典から好きなものを選んで石板に書くのよ。
サラは、お仕事で使う言葉の書き方を覚えましょう。」
アリス先生の授業が始まった。
私にはその様子が可愛らしく見えてならない。
私はその様子を見ながらコレット・コレクションのデザインに取り掛かる。
そのまま商会の仕事着になるので、動きやすく、ゆとりのあるデザインに仕上げた。
特に女性は何枚もの重ね着をしている着こなしから、シンプルに着用できるように改善を図った。
「ふぅ、こんな感じかしらね。」
木製の人形に型紙を合わせていき、確認をしていった。
「この考え方が、女性たちに受け入れてもらえるかしら。」
今までの服とは違って極端に部材を大きくし、パーツを少なくすることで、作成の手間を減らすようにこだわっていた。
子供たちの勉強もそろそろ終わりらしい。
カイルは遊びたくてそわそわし始めていた。
アリスとサラは、勉強をしながらも私の作業が気になって仕方がない。
自然と私の周りに子供たちが集まった。
「あら、もうお勉強はおしまいかしらね。」
「ええ、そうよ。続きはまた明日ね。」
「お母様、新しい服のデザインですね。
見たことありませんわ。」
「そうね、お仕事で着る服なので、簡単なデザインなのよ。
それでいて動きやすく、少しだけおしゃれにね。」
サラは目を輝かせてみていた。
服はいつも着まわしたものを与えられていたので、新しく服が作られていくところを見るのは初めてだった。
「私もコレット様のように、服を作ることが出来るように、なれるでしょうか?」
サラが遠慮がちに尋ねた。
「そうね、まずはここでお針子のお仕事もあるでしょう?
そこから始めてみれば、服はどうやって作られるのかがわかるわよ。」
「はい、お針子の仕事を頑張ります。」
サラは私の仕事を見て言った。
「将来お母様がデザインした服をサラが作ってくれたらうれしいな。」
アリスが嬉しそうに話をしていた。
「お嬢様、ありがとうございました。」
サラは挨拶をして、仕事に戻っていった。
「カイルは大きくなったら何になるのかな?」
「僕はね、お父様みたいに船のお仕事をしたい。」
カイルの言葉に思わず息をのんだ。
カミルは休みの日に子供たちに交易船を見せたことがあった。
かっこいい父親とともに、大きな船はとても印象に残ったに違いない。
アリスの演奏するメヌエットが館内に響いていた。
無邪気で可愛らしい演奏に仕上がっていた。
そう、この子たちが安心して暮らしていけるように、大人たちの陰謀から守っていかなくてはならない。
カミルがたった一人で立ち向かったように。