告発のメヌエット

第19話 接点


 メアリーが私を呼びに来た。
 父からエダマからの荷物が届いたとの知らせと、執務室で商談があると知らせに来た。
 
 父の執務室ではエダマから来た荷物の納品の確認が行われていた。
 荷下ろしが終わったケイトとトーマスが父と一緒に話していた。

「あら、ケイトじゃない。今日の荷物を届けてくれたのね。」

「コレット様もお元気そうで何よりです。」

「それでどう?商売の方は。」

「いや、あたしら運送屋が登録制になってからは、交易所が仕事を割り振るんだよ。
 だから仕事があるのはいいのだけれど、運びの大きな依頼はの大きな業者が独占しちまって、あたしらには小口の仕事しか来なくなったんだよ。
 それでも毎日ここと往復2便はあるから、ありがたいといえば、そうなんだろうけど。」
 
 今までとは勝手が変わったことに不満を持ちつつも、いつも仕事があることはいいことだ。

「それで、街の様子は落ち着いたかしら?」

「まぁみんなうまくやっているさ。
 交易所が帝都からの注文を一手に引き受けてくれて、貿易商にまとめて注文するだろ。
 船便に無駄がなくなったおかげで前よりも効率は良くなった。
 だから悪いことばかりじゃなかったな。」

「業務の効率化で仕事がやりやすくなることはいいことですね。」

 トーマスが感心しながら話を聞いていた。

「それでねケイト、一つお願いがあるのだけれど、カミルが最期に手掛けた仕事を知りたいのよ。
 ほんの些細なことでもいいの。
 何かわかったら教えて欲しいのだけれども。」

 私はカミルの最期の仕事はなんだったか。
 いつ頃にどんなことがあったのか知りたい思い、ケイト尋ねた。

「そいつはちょっと難しいかもね。
 ほら、港湾事務所から仕事が交易所に移っちまったでしょ、だから今までの仕事の伝票が残っているかどうか。」

「そうなのか。」

 父が落胆した声で言った。

「カミルの旦那の最期の仕事って言えば、ラタゴウの領主が紹介した、麻織物の交易品だろ?
 それがどうかしたのかい?」

「ああ、カミル君はどうやら取引先とのトラブルに巻き込まれたようだ。
 だからその取引の情報が知りたい。」

「それなら確か、荷運びをした仲間がいたはずだから、今度聞いておきますよ。」

「それはありがたいわ。
 でもね、ケイト。
 くれぐれも気を付けてね。
 特に、オルフェ侯爵家には動きを知られないようにしてね。」

「なんだかやばい話なのかい?」

「実はカミルは脅されていたのよ。
 だからもし私たちの動きが相手の知るところになったら、身の危険を覚悟しないとならないの。」

「まさか……その相手はオルフェ侯爵家だとか?」

「ええ……用心するに越したことはありません。」

「情報料だ、それに危険手当と思ってくれ。
 すまんなぁ、すっかり巻き込んでしまって。」

 父は金貨1枚を手渡した。
 
 ケイトはしばらく考え込み、金貨を手のひらで転がしながら答えた。

「……仕方のない娘だね。
 まぁ、やってみるさ。」

 そう言ってエダマの街に戻っていった。

 私たちにとって、カミルの足取りを追うことが、彼の死の謎を解く第一歩と考えた。

 特に7月16日の夜、酒に酔って保護されたと記録されていたが、本当にそうだろうか?
 記録にあった異様な行動から、その日に「接待」があったことはほぼ間違いないだろう。

 その日以前にもあったのか、その後もあったのか。
 問題はそこに至る経緯が見えてこない。
 急に言動がおかしくなり始めたのはちょうどそのころだと思う。
 いったい彼に何があったのか。

「今日も歓楽街へ調査に向かおうと思います。」

「それなら、これを持って行ってください。」

 私はカミルが送って来たマドラーを手渡した。

「そうでしたな、あの街でのマドラーの役割がわかったのですから、これが何を意味するか、分かるかもしれません。」

「くれぐれも、無理のないようにな。
 今はまだこちらの動きを気取られてはならない。
 こちらはまだ相手の正体にたどり着いていないのだからな。」

「はい、心得ました。」

「もちろんエリックにもね。危うい状況になったら戻って頂戴。
 私は夜まで帰りを待っていますから。」

「ええ、それではご主人様、夕方よりエリックとともに行ってまいります。」

「ああ、期待しているよ。」

 これで少しでもカミルの足取りを追うことが出来れば、何が起こったのかを探ることが出来る。
 私は期待を込めて待つことにした。

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