告発のメヌエット
第21話 遠雷
私と父は屋敷で二人の帰りを待っていた。
午後10時ごろ、
「ご主人様、ただいま戻りました。」
「ええ、お二人ともよくご無事で。」
私はトーマスの姿を見て安堵し、二人に語りかけた。
「何か新しいことがわかりましたか?」
「ええ、今日も『馬車馬』の店主から情報を仕入れてまいりました。」
「その店主は信用できるのか?」
父も心配そうに二人の帰りを待っていたので、二人の報告に耳を傾けていた。
「少なくとも金でつながっているうちは、裏切らないでしょう。」
「ふむ、しっかりと『仕事』はするようだな。」
トーマスは「馬車馬」で仕入れた情報を私たちに話した。
「では、その『エデン』というキャバレーとカミルが関わったということになるのね。」
「ええ、おそらくは。そこで何があったかまでは把握しきれていません。
店も客も内密にしておりますので。」
「だろうな、その店で『接待』される要人が大麻に冒されていると知られれば、一大事だからな。」
「ですから、店は顧客を管理していたようです。情報の統制をするためでしょうか?」
「あるいは、脅し……か。」
私たちの間に沈黙が流れた。
「正義感の強いカミル君のことだから、何者かの『接待』によって、だまって言いなりになることは耐えられなかったのだろう。」
「そうね、カミルの身に何が起こったのかは、なんとなく想像がつくけど、どうしてその店に行ったのか。
そこがまだ繋がらないの。
ケイト話を待つしかないわね。」
そうして今夜はお開きとなった。
私はベッドに入ってあれこれと考えていた。
カミルの様子が変わったのは7月の上旬ごろ。
そのころに何か重大な秘密を知ってしまったとすると、最後の取引、つまりラタゴウの領主直々の依頼の頃ね。
もともとお酒を飲む方だったけど、あんな無茶な飲み方をする人ではなかったはず。
面倒見のいい彼は、酒の付き合いも多かったが、最後にはきちんと会計を済ませて帰ってくる。
それに供の一人もいないなんて、地方貴族としてはありえないことばかり。
そもそもどうして「エデン」なのか。
ほかの店ではなく……。
誘われた? 誰に?
その人との接点は?
そして最大の謎、カミルと大麻の関係。
胃の内容物に大麻が入っていた?
なぜ? どうやって?
「うーん、やっぱりわからないわ。」
真相に近づけば、何かがわかるだろうか。
今は何かがわかるたびに、事件は不気味さを増していく。
真実は霧の向こうにあるように思えた。
気が付けば雨が降っていた。
遠くで雷の音が聞こえる。
夏も終わり、秋の嵐を予感させる夜だった。