告発のメヌエット
第27話 拠点
商会の朝のミーティングが終わったころ、エリックが子供たちの付き添いから戻ってきた。
「早速で悪いが昨日の話を聞こう。
トーマス、『馬車馬』の話はどうであったか?」
「はい、店を続けるということになりましたが、一つご主人様にお願いがございます。
店主はオーエンというのですが、店の経営権を渡すので、彼を雇って欲しいとの提案がありました。」
「というと?」
「彼はあの街では顔も広いので、情報収集などには適任なのですが、何分危険なことをお願いするにあたっては、身元の保証が欲しいというわけです。」
「それで?
我々が『馬車馬』を経営して、彼を雇い入れればよいのだな。
そのオーエンとやらは信頼に足る人物か?」
「ええ、少なくとも『エデン』には迷惑をしておりますので。」
「敵の敵は味方、というわけだな。」
「それから我々の情報収集にも適任かと。
今までの店をそのまま使えば周りに怪しまれることもありませんので。」
「では、そこを証拠集めのための拠点とするわけだな。」
「しかし情報集めをするには、客が少ないのでは話になりませんわ。」
「よし、女性を雇うことにしよう。
元『エデン』関係者が良いな。
その者の伝で女性客が来るようになれば、情報も集まるだろう。」
「でもどうやって女性客を?」
父はしばらく考えて、
「彼に頼もう、ジョージ先生だよ。
彼は若くて見栄えもいいだろう?」
「ええ、確かにそうですけれども。」
「週に一度でいい、そこでピアノを演奏してもらい、そのあとは多少接待してもらうことにはなるのだが。」
「でも、もめ事に巻き込まれるようなことがなければいいのだけれども。」
「そこにトーマスとエリックが一緒に居れば、問題ないだろう。
先生への給金もその場で支払えばよい。
1回あたり大銀貨1枚でどうか。」
「そうね、彼はやってくれるでしょうか?」
「まぁ、アルバイトだと思えばな。
過去にもそういった経験はあるようだし。」
「トーマス、ピアノはどれくらいで届くのか、この前の業者に聞いてみてくれ。
なるべく急ぐとな。
それから『馬車馬』のオーエンと話がしたい。
契約書を交わさなければ。」
「そうですね。
ピアノは納品までには1か月ほどはかかるかと思います。
お嬢様のピアノもそれくらいでしたので。」
「そうか、それまでに少し店を改装する必要があるな。
オーエンとの契約を急ごう。
そしてわしもオーエンとやらの人となりを見てみたい。」
「かしこまりました。」
「旦那様、そのオーエンからの情報で、『かわいそうな馬』の話を耳にしました。
先ほど運送組合に行ってみたのですが、どうやら持ち主が2か月前から行方不明になっているようなのです。
もしやと思って聞いてみましたところ、ビッグスのところの荷馬車だそうです。」
「それは本当か、何かわかるかもしれん。すぐに抑えさせろ。」
「はい、エダマの交易所に登録変更ができるか、聞いてまいりましょうか?」
「いや待て、われわれの存在が明るみになってはならん。」
「それではケイトにお願いしてみてはどうでしょうか。
ケイトなら同じ運送業者ですので、話は早いかと。
『かわいそうな馬』の引き取りを頼まれた事にすればよいのです。
その後商会で引き取っても問題はありませんから。」
「それではケイト様に荷馬車1台分の負担がかかるのでは?」
「ええ、当商会専用の荷馬車をケイトに委託すると言えばよいのです。
エリック、うちの厩は空いていますか?」
「はい、馬一頭と荷馬車なら大丈夫です。」
「次のエダマからの荷物はいつ到着予定だ?」
「明日になりますが、いかがいたしましょう。」
「ケイトが帝都にいるようなら声をかけてくれ。
エダマにいるなら明日会うことにしよう。」
「かしこまりました。」
「それで、小姓への駄賃ですが、2か月も馬の世話をしているので、少し色を付けてやりたいのです。」
「ほう、優しい子もいるものだな。
よし、特別に銀貨5枚を彼に進呈しよう。
もちろん組合ではうちの馬も世話になっていることだしな。」
「はい、そのように伝えます。」
エリックは運送組合と子供たちのお迎えに出かけて行った。