告発のメヌエット

第31話 信頼


 私が商会の屋敷に帰ると、父が私に話を聞こうと待ち構えていた。

「あれほど慎重にしろと言ったのに、ダイス先生の所へ直接行くなんて、お前はどうしてそんなに……。」

 お説教が始まった。
 私の身を案じてくれるのはいいが、やはり直接自分の目で確かめたかったのだ。
 
 私は診療所での先生とのやり取りや、中の様子について話をした。

「先生は大麻に関する何かを隠しているのは確かね。」

「だが、今のところ決定的な証拠はない。
 それらは状況が物語っているにすぎん。」

 確かに、空の荷馬車が診療所の前にあったこと、実際に大麻を使って薬を作っていることや、交易品の箱があったことを踏まえると、何らかの関わりがあると示唆していた。
 しかしカミルの事件との接点となる証拠はない。

「もう、どうすればいいのよ。」

 私は苛立ちを隠せなかった。
 目の前には手掛かりとなる人物がいるのに、なかなか真相へたどり着けない。

「証拠を集めるしかないでしょうな。」

 トーマスは冷静に言った。

「まずは、先生が本当に医療目的で大麻を使っているのか、
 それとも……違う目的があるのかを、な?」

「でもどうしたら、そんなことがわかるのよ。」

「作った『製品』は必ず『納品』するだろう?」

「あ、そうよね。必ず『エデン』へ運ぶはずだわ。」

「そうですな、オーエンに調査を依頼してみましょうか。
 どういうルートでダイス先生からエデンに『製品』が『納品』されるかを。
 人を関わらせたくないのなら自分で運ぶでしょうし、身元を隠すなら誰かに依頼するでしょう。」
 
 マークすべき人物が特定できたのはよかった。
 あとはどうやってその情報を得るかだ。

「先生は何か悩んでいる様子でした。
 どこか気楽に話せて、秘密にできるところは……?」

「それならば『馬車馬』が良いでしょう。
 昼間であれば誰も来ませんから。
 もっともあそこは夜でも人はいないのですがね。」

 トーマスは苦笑いをしていた。
 
 酒場の昼間、確かに関係者ぐらいしか出入りはないのだろう。

「では、手紙を書いてみましょう。
 昼間の『馬車馬』なら、誰もいませんし、付近を通る人もいないでしょうから、そこで話しましょうと。」

「そうだな、わしらが秘密を探っていると思われるよりは、どうにか助けたいと思わせるのが一番だな。」

「そうね、味方であることを明確に示す必要があるわね。
 それならいいお返事をいただけるかしら。」

「『納品』の帰りにでも立ち寄ってもらうか。」

「そんなにうまくいくかしら。」

 私はダイス先生に手紙をしたためた。
 先生がその苦しい胸中を語ってくれるのなら、それだけでも意義のあることだ。
 ちゃんと話を聞く姿勢があることを示すためにも、差出人は私にした。

「ではトーマス、お願いね。
 私の名前を見れば、何の話かは分かるはずだから。」

「確かに。良いお返事が来るとよいですな。
 これはエリックに頼みましょう。
 学校に迎えに行くついでに診療所へ寄ってもらいます。」

「あら、もうそんな時間なのね。」

 子供たちがおなかを空かせて帰ってくる。
 それから今日はジョージ先生も来る日だった。

「メアリー、アリスの授業が終わったら、ジョージ先生と話をしたいの。
 お茶とお菓子を用意して頂戴。」

「はいコレット様、かしこまりました。」

 メアリーもコレット・コレクションの試作品を身に着けていた。
 重ね着をしていない分だけ、動きが軽やかに見えた。

「ね、いいでしょう? その服。」

「はい、身に着けるのも簡単で、動きやすく、身が軽くなりました。」

 少しふくよかなメアリーが『制服』を身に着け、颯爽と仕事をこなしている姿は、さわやかな印象を与えていた。

「女性のためのワーキングスタイルとして、流行しそうね。」

 私の服の評判は、使用人の間ではまずまずだった。
 しかし店頭ではまだ売れていないという。
 あとでアニーをお茶に誘って様子を聞いてみることにした。
< 32 / 57 >

この作品をシェア

pagetop