告発のメヌエット
第33話 演目
夕方、ジョージ先生の授業があり、アリスは課題のモーツアルトのソナタに苦戦していた。
「ほんとに気まぐれな猫さんね!」
アリスは譜読みに苦労していた。
「モーツアルトはね、大きな子供なんだ。
もちろん彼の初期の作品なら子供らしい可愛らしさが見えたのだろうけれども、いくつになっても子供だったのだよ。
だからこうして音遊びを楽しんでいる。
理屈じゃないんだよ。」
「そう、それならば私も楽しめばいいのね。」
「そうだよ、きっとモーツアルトがどうやってこの曲を書いたのか、その時のことを思い浮かべてみると、楽しんで書いたことがわかるんだよ。
だから全く理論的ではない。
アリスの『猫みたい』という意見も間違いではないよ。」
「そうですね、それなら猫になった気分を楽しんで演奏します。」
アリスの軽やかな演奏が館に華やかな彩を添えた。
「うん、いいね。
これで演目が3曲になったね。
どうだい?
僕と一緒にサロンパーティーで演奏するのは?」
「え、いいんですか?」とアリスは驚いた。
「もちろん!
僕が何曲か演奏する間に、君が出てくれると助かる。
今まで僕は7-8曲ぶっ続けで演奏していたから、3曲くらいで交代してくれる人がほしかったんだよ。
僕が演奏して、君を紹介する。
君が演奏している間に僕は少し休憩して、最後は再び僕の登場ってね。」
「うれしいです。こんなに早くサロンで演奏ができるなんて。」
「僕も師匠に紹介されて、何曲か演奏するところから始めたんだよ。
ただ、お客さんがいるということは、リクエストに応えなければならないよ。
時々ちゃんとしたクラシックを聴きたいお客様の集まりでは、楽譜に忠実に演奏しなければならない。
だいたいそういう時は、お客様自身もピアノを演奏する方なんだね。」
「そうなのですね。
なんだかお客様に聴いてもらうのが怖くなります。」
「今回のお客様は、貴族のご学友の集まりで、皆学院生だ。
ランベルク師匠の教え子たちだよ。
立食パーティーのBGMだから、演奏会とは違うんだ。」
「初めての舞台としては、気楽にできそうです。」
「そうだね、そうやって君も名を売っていった方がいい。
僕が人前で演奏を披露したのも10歳だから、かれこれ12年になるね。
今ではそこそこ名前が売れて、直接依頼が来たり、師匠の紹介で依頼を任されることもあるんだ。」
私は急にアリスが遠くへ行ってしまうかのように思えた。
ピアノで独り立ちしていくためにはこういう機会も大切だが、もう少し母親として接していたい気持ちと、娘の夢を後押ししたい気持ちが揺れ動いていた。
「もちろん、保護者同伴でお願いしますね、コレット様。」
「ええ、衣装のことやお客様への対応などは、私がついていなければなりませんから。」
「僕もそうしていただけると助かります。」
こうしてアリスには具体的な目標ができて、一層ピアノの腕に磨きをかけていくことになった。