告発のメヌエット
第34話 好機
アリスのレッスンが終わったところで、私はジョージ先生とともに、父の執務室へ行った。
「先生、今日はいい話を持ってきていただきまして、ありがとうございました。先生は以前からこのような活動をされていたのですか?」
「ええ、うちはもともと貴族の御用商人でしたので、自宅にピアノがあったのですよ。
ランベルク氏がピアノを求めたときに、グランドピアノの価格が少し高かったので、父が分割払いにしたのですよ。」
「そうですな、彼がまだ無名だったころですな。」
父はそのエピソードを知っているかのように懐かしんでいた。
「ちょうどのその時に、家の中でピアノを練習していた僕に、ピアノを教わらないかと言ってきたのです。
父がその話を聞いて、『分割払いを安くするからこの子にピアノを教えてやってくれ。』って。
それが僕と先生との出会いでした。」
「もう15年以上も前のことじゃないかな。
彼も無名だったが、わしからの紹介だと言って演奏する機会を得られると、一躍有名になったんだ。
わしは少しだけ当時の彼を後押ししたに過ぎない。
今の彼があるのはもちろん彼の才能だがね。
こうして弟子をとるようになったとは、わしもうれしいよ。」
「アリスお嬢様は、ランベルク氏の孫弟子ですね。」
「ああ、全くだ。本人だけではなくて、孫弟子の面倒まで見るとはな。」
父とジョージ先生は、上機嫌でサロンやロビーでの演奏について語った。
中でもランベルク先生の演奏会では、ロビーにもピアノがあったため、開演までの間にBGMとして演奏し、それが名を売るきっかけになったと話していた。
「ピアニストとして成功するためには、もちろん腕も必要ですが、何よりも聴いてもらう機会が必要です。
ですからこれからアリスお嬢様が参加できる機会があれば、おすすめしようと思うのですが。
もちろんコレット様もご一緒に参加していただきますよう、お願いします。」
「わかりました。こちらこそよろしくお願いします。」
「さて、アリスのデビューは決まったな。次はコレットの番だ。」
「ええ、実は先生にお願いがありまして。」
「はい、なんでしょうか?」
「先生が行うサロンパーティーでアリスが演奏するときのドレスを私が作るのですが、その時に同じデザインのドレスを用意して、販売しようと思います。」
「それは面白いですね。
アリスの演奏とともにそのドレスが注目を浴びれば、女子学生たちは放ってはおかないでしょう。」
「ええ、とてもありがたい話です。
ですが、そういったパーティーに私たち商人が出入りをしてもよろしいのですか?」
「そうですね、ほかのサロンパーティーでも参加者にコンサートのチケットや、書籍や楽譜の販売、ピアノまで紹介しているところもありますので、主催者が許可すればよいと思います。」
「それでしたらぜひ、お願いいたします。」
「ただ、今回は学院の学生たちが自分たちで行うパーティーなので、学院が許可するかどうか。」
「ランベルク氏に相談だろうな。彼には世話になりっぱなしだな。」
「今回の企画は学生の自主活動ですので、経費は少ないと聞いています。
私の出演料も値引きされましたし。
もしもハイマー商会がスポンサーになっていただければ、彼らも快く受け入れるでしょう。
コレット・コレクションは、女子学生の間で話題になっていますし。」
「しかしまだ、売れていないのですよ。」
「商会の従業員が着る制服がかわいいと噂されています。
自分で着るというよりも、使用人に買い与えるつもりでしょうか。」
「いずれにせよ噂にはなっているのね。
あとは接点次第ということかしら。」
「トーマス。」
「はい、こちらに。」
「ジョージ先生からの話では、学院でサロンパーティーが行われるそうだ。
ランベルク氏と学院長あてに、ハイマー商会がスポンサーを申し出ると手紙を書いてくれ。
それから出店の許可もな。」
「ありがとうございます。
これで学院も主催する学生たちも、体面が保てると喜ぶことでしょう。」
アリスの演奏者としてのデビューと、私のコレット・コレクションの販売の足掛かりを見つけた。
ここで知名度を上げるチャンスが訪れたのだ。