告発のメヌエット

第40話 企画

「それでは先生を交えて、学院のパーティーイベントについて話をしよう。」

「はい、よろしくお願いします。」

「先日ハイマー商会からは1000Gを学院に寄進いたしました。
 当初の予算から約2倍になったので、立食イベントの内容の充実を図り、参加人数を増やす計画のようです。」

「それはよかったです。ありがとうございます。
 これで企画した学生たちも喜んでいると思います。」

「なに、かまわんよ。
 それ以上に服が売れて、利益を見越しての投資なのだからな。
 それに皆に喜んでもらえれば、こちらもうれしいからな。」
 
 父は乗り気だった。

「それに、アリスがパーティーでデビューするのだ。
 わしがスポンサーにならないでどうする。」

「そうね、お父様、ありがとうございます。」

「それで、服の方はどうだ?準備は間に合いそうか?」

「ええ、学院生であることを考えて、サイズはアリスと同じジュニアのサイズから、大人用の大きなサイズまで4つを用意しました。
 デザインや色を少し変えて、バリエーションを持たせてあります。」

「それはいいことだ。
 女性は他人と同じ格好にならないように気を遣うものだからな。」

「それはどうしてですかね?」

 ジョージ先生が真顔で聞くから、おかしくてつい笑ってしまった。

「女心がお分かりではありませんのね。
 女性は自分に注目をしてもらいたい生き物なのですよ。
 特に意中の方がいるのであれば、『私だけを見て』と思うのです。
 髪型やアクセサリー、バッグや靴に至るまで、自分らしさの演出に磨きをかけているのですわ。」

「そうなのですね、知りませんでした。」

 若くしてピアノの神童と言わしめた先生でも、この話は謎が多いことだろう。

「そこに『出来合い』の服を売り込むのだから、戦略が必要なのだな。」

「ええ、試着室と姿見を置こうかと思います。
 実際に身に着けてみてもらうことで、お買い上げになった姿を確認してもらうのです。
 サイズの確認もありますけれどもね。」

「男子の学院生についてはどのようにお考えですか?」

「こちらはカイルの服装から型を取り、大人のサイズと、それを少し小さくしたものを用意しました。
 こちらの戦略としては、シャツの色を変えてみます。」

「シャツは白ではないのか?」

「ええ、いろいろな生地で試作させていますので、どの色に人気が集まるのかを調べたいと思います。」

「ふむ、いいだろう。この機会に売れ筋を探すというのだな。」

「ええ、さらにここから学院ならではの仕掛けを作ります。」

「ほう、それは何をする気なのだ。」

「試着室から待合室の真ん中を通る、お披露目ができる通路、『花道』を作ります。」

「その意図は?」

「私たちの服を着て、そこを歩いてもらいます。
 もちろん男性と一緒に歩くこともできますよ。
 婚約者のいる方もいるでしょうから。」

「それはおもしろい!男女二人並んでお披露目をするのですね。
 きっと学院生は『キャーキャー』言いますよ。」

「そうでしょうな……。」

 トーマスは半ば呆れていた。
 いくら販売促進のためとはいえ、男女が並んで見世物になろうとは。

「よかろう、学院の中だけの企画であれば、それもいいだろう。」

「私は次もこの企画で行こうかと思っていたのですが。」

「コレットよ、物を売るときには人目を引く奇抜さや斬新なことも必要だが、今のご時世にも配慮するものだ。
 どんなに商品が良くても、受け入れられなければ売れないのだからな。」
 
 トーマスが無言でうなずいていた。

「学生のイベントに花を添えるようで楽しみです。
 もちろん学院には事前に許可を取ってくださいね。」

「わかりました。
 会場の下見を兼ねてご挨拶に伺い、こちらの計画の説明をしてまいります。」

「ところでこのパーティーの主催者はどなたですか?」

「アイリス皇女殿下と伺っています。
 ちょうど今学院の4年生ですので。」

「わかりました。
 皇女殿下には一層美しくなっていただき、そうして花道を歩いていただきましょうか。」

 私の創作意欲は一層火が付いた。

 この後は具体的な打ち合わせは先生とトーマスで行うこととなり、打ち合わせはお開きとなった。

 アリスもカミルの死を彼女なりに受け止め、前を向いて生きていくことが出来た。
 私もこうして事業に乗り出すことが出来るようになった。

 今の私は、彼の妻ではなく、子供たちの母であり、事業家なのだ。
 アリスとカイルの寝姿を見て、これからの私たちの生活のため、今できる精一杯をしよう。
 そう思って眠りについた。
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