告発のメヌエット

第44話 役割


 ハイマー商会に戻ると早速トーマスは父にクリス殿下からもたらされた情報と、彼の密偵「ノール」が「馬車馬」を通じて殿下とのやり取りに協力をしてくれることを伝えた。
 そして、カミルが関わった事件の真相についても話をした。

「これでようやく全貌が明らかになった。
 カミル君がなぜ殺されなければならなかったのか。
 彼の死の真相が明らかになったわけだ。
 コレット、これからどうするつもりだ?」

「私にはとても許すことが出来ないのです。
 大麻の密輸も、『エデン』で行われていることも。
 もちろん、これから何もしなければ、平穏な生活をするでしょう。
 しかしカミルがしたかったこと。
 それは正しい行いをすることだったように思えます。」

「ああ、その通りだ。
 しかしコレットよ、父親としては娘がこれ以上危ない目に合うところは見たくないのだ。
 正義を貫くのは為政者の仕事だ、一介の商人の仕事ではない。
 ましてデザイナーにもだ。」
 
 父はパイプに火をつけ、煙草をゆっくりと吸った。
 そして深いため息とともに吐き出した。

「ただし、善い行いをすることはできるだろう。
 ダイス先生の診療所を大麻から解放し、ニナという少女を不遇な状況から救い出す。
 貴族のパーティーで寄付を募るなど、できることはあるはずだ。」

「そうでございますよ、コレット様。
 何もできないわけではありません。
 こういうことを表立ってしていれば、情報はおのずとやってきます。
 それらを『馬車馬』のノールに伝えればいいのです。
 クリス殿下の『正義のお手伝い』をするのですな。」
 
 もうこれ以上は何もできないのだと、半ばあきらめていた。
 でも、私にもまだ出来ることあると思うと、少し気が晴れた。

「デザイナーとしてのコレットも名声が高まり、ジョージ先生とアリスのピアノも話題になれば、今回学院のパーティーに参加した貴族の子女たちからサロンパーティーのお誘いがあるだろう。」

「そうすることで、首謀者たちをあぶりだしていくのね。」

「当然、事件の首謀者は焦るだろう。
 なにせ事件の中心人物のダイス医師と、カミルの妻のコレットがいるのでな。
 しかも大麻撲滅の運動をすれば、その者たちは気が休まらないだろう。」

「彼らが接触を仕掛けてきたとき、そこが狙い目ですな。」

「我らにとっても、そこが一番危険なのだが……。」

 父とトーマスが思案をしていると、エリックが提案した。

「ノールと連携をとって、クリス殿下の部隊に動いてもらいましょう。」

「そうだな、証拠を集めて殿下の動きを補佐し、いざという時には動いてもらえるように手はずを整える……それがいい。」

 とりあえずの方針が決まったところで、今回はお開きとなった。
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