ろくな死に方しねぇから
「タキシード着た宮間はもっとモテそうだな。憎たらしいわ」

「本当に何なんだよ宮間。俺にもモテ要素分けろよマジで」

「難しいお願いだね」

 依澄はさらりと躱す。冗談めかして無茶な要望を口にした男子に対して、否定も肯定もしないありきたりな返事のみしてあとは笑ってみせていた。反吐が出そうだった。律輝は静かに水を飲んだ。

「まぁ、正直、提案した女子は宮間のその姿を見たいから、執事喫茶なんて発想に至ったんだろうなって俺は思ってるよ」

「なんだよそれ。マジかよ。おい女子、聞こえたか? お前らまさか宮間のタキシード姿が見たくて執事喫茶にしたんじゃないだろうな」

 声の大きい男子が女子のグループに身体を向けて尋ねた。島の出入りはしやすい。そこに性別は関係なかった。

 突然声をかけられた近くの女子数人は、水筒や弁当箱片手に男子を振り返った。会話の内容を咀嚼するような暫しの沈黙の後、ああ、と女子の一人が理解したとばかりに首肯する。

「それはある」

「あんのかよ。そこは否定してくれよ」

 笑いが起きた。依澄も笑っていた。気持ち悪かった。依澄の笑顔はどうにも受け付けられなかった。

 依澄の周りの和やかな雰囲気を横目に、律輝は食べ切った菓子パンの袋を縦に長く折り畳んで結んだ。癖だった。

 綺麗に縛ったゴミを手放し、ペットボトルに口をつける。誰とも話さずに一人でいると、他人の会話はよく耳に入ってくる。男子だけだったそれに、新たに女子が加わった。

「否定も何も事実だよ。でも全員が全員、宮間くんだけのタキシード姿を見たいわけじゃないよ」

「え、ってことはつまり、宮間以外の男子のその姿を見たいって女子がいるってことか?」

「そうなるね。だから、宮間くん以外の男子も張り切っちゃっていいんだよ。やる気ある方がモテるだろうしね」
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