ろくな死に方しねぇから
「ご、ごめん、蓑島くん、最後に一つ、い、言わせてほしい」

 女子の声が耳から耳へ抜けていく。張り詰めた異様な空気に集中してしまう律輝を変だと思うこともなく、女子は再び一生懸命言葉を紡いだ。曲がり角から人の影が見えたような気がした。

「わ、私の、へ、下手くそな、言葉、き、聞いてくれて、あ、ありが……」

 その瞬間、律輝は目にした。考えるよりも先に身体が動き、地面を蹴って駆け出す。女子の言葉を最後まで聞かずに、否、聞けずに、まだ何も気づいていない女子の二の腕を掴んで引っ張った。背後へ投げるようにして強く。思い切り。優しくしている場合ではなかった。

 不意に目が合った。突如として現れた相手と目が合った。人を殺しそうな暗い目だった。その相手が繰り出した足が、女子のいた場所を、律輝の目と鼻の先を、蹴り飛ばす。加減などしていないのか、髪が靡くような風圧を感じた。あと一歩遅ければ、女子は大怪我を負っていたに違いない。

「え……、な、なに……」

 律輝に乱暴に引っ張られバランスを崩し、そのまま地面に膝と手をついてしまった女子が目を泳がせる。突然の暴力から女子を助けたものの、律輝も説明はできなかった。できなかったが、溢れ出していた殺気を瞬時に消し去り、にこりと胡散臭い笑みを貼り付けた人物、依澄が、女子を背後から蹴り飛ばそうとしたのだけは明白だった。

 律輝と依澄は目を合わせて対峙する。二人の間には見えない火花が散っていた。静かな殺意と静かな高揚。

「反応してくれて安心したよ。また無視されて辛かったから」

「わざわざ後をつけてまで俺の反応がほしかったなら、他の誰かじゃなくて俺を狙えばよかっただろ」

「そうしようと思ったよ。でも、近くに彼女がいたし、それに彼女、俺が気に入ってる蓑島を取ろうとしたから」

「え、あ、私、と、取ろう、なんて……」

「ごめん、静かにしてくれる? それか、今すぐどこかへ行ってくれる? ちょっと邪魔かな。今、蓑島と大事な話してるから」
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