ろくな死に方しねぇから
 女子の言い分を最後まで聞かずに遮る依澄には威圧感があった。平常時の穏やかな口調でありながら、相手に言葉を飲み込ませる威力がある。

 女子は依澄を前に怖気付き、ごめん、ごめんなさい、と本日何度目か知れない謝罪を口にしながら、ふらふらと立ち上がった。見えた膝は擦り切れており、血が滲んでいる。足取りも覚束ない。爪や牙も元通りに引っ込んでいる。熱が冷め、震えるほどの恐怖を感じているのが見て取れた。律輝は何も声をかけなかった。

「俺から蓑島を掠め取ろうとするなんて、喧嘩売ってるよね」

 すっかり怯え切った顔で立ち去った女子には目もくれず、俺に勝てるわけないのにね、と依澄は同意を求めるように律輝に投げかけた。律輝は答えない。告白は失敗し、怪我もさせられ、挙げ句の果てには濡れ衣も着せられる災難な目に遭った女子を気にかけもしない。ただひたすら、依澄を凝視していた。

 自ら寄ってきてくれた此奴をここで逃すわけにはいかない。何があっても、必ず、殺す。

 依澄と視線が絡み合った。途端に空気が淀む。律輝の殺気を感じ取ったのか、依澄は嘘臭い微笑から、普段であれば絶対に見せないような挑発の混じった不敵な笑みに表情を変えた。人を喰い殺しているヴァンパイアの顔だった。

 律輝以外の人の目がなくなったせいだろう、依澄が綺麗に保っていた仮面はボロボロと剥がれ始めていた。世間体を気にした人気者の依澄ではなくなっている。素顔が露出している状態だ。いつ本性を剥き出しにして襲いかかってくるか、と警戒した次の瞬間、視界の隅で依澄の手が動いた。指が綺麗に揃えられ、伸ばされている。手刀だ。爪の先が鋭い光を放っているように律輝には見えた。勢いよく迫る依澄の手。咄嗟に後退する。指が眼前を容赦なく切りつける。直に感じた微風に目が乾燥する。瞬きをした。両眼を狙われた。唾を飲み込む。心拍数が上昇する。油断ならない。
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