ろくな死に方しねぇから
「もう少しで目を潰せたのに。残念だよ」

 律輝の目を潰そうとした指先を触る依澄。爪が伸びていた。鋭く尖っていた。興奮しているのか。いや、違う。依澄の場合は、自分の意思でコントロールができる。依澄は落ち着いている。

 律輝は大きく息を吸って、吐いた。集中力を高める。生半可な気持ちでいては殺される。依澄は人を傷つけることに躊躇がない。そしてそれは、殺し屋としてヴァンパイアを殺してきた律輝にも通ずる。心はいらない。ただ目の前のターゲットを、淡々と殺すだけ。

 冷静に判断する律輝はまず、自分のペースとタイミングを作り出すために、暫し固く閉ざしていた唇を開いた。

「宮間、明日の文化祭は楽しみ?」

 心底場違いで柄にもない雑談を始めながら、律輝は決して手放すことのなかったバッグの中に手を突っ込んだ。

「蓑島がそんな質問するの、珍しいね。明日は雪が降るかも。文化祭、楽しみにしてるのに」

「俺も楽しみにしてる」

「信じられないよ。めちゃくちゃ嘘吐きだね、蓑島」

「俺も宮間のこと信じられない。日頃から嘘ばっか吐いてるくせに」

 腹の探り合いをするように目を合わせた。律輝の手は凶器に触れていた。愛用のナイフだ。手繰り寄せるように握り締める。馴染みのある触り心地に安心感を覚える。

「嘘吐き同士、明日は仲良く一緒に回ろうよ」

「言葉が薄っぺらい紙切れみたい。すぐに破れそう」

「破らず丁寧に扱ってよ蓑島。いつも折り畳んで結んでる菓子パンの袋みたいに」

「そんな場面盗み見してたとか気持ち悪すぎる」

 言い争いに熱が入る。その熱を、律輝はバッグから素早く引き抜いたナイフに宿した。迷いなく、前触れもなく、依澄の首を狙う。頸動脈。ズームされたようにその部位だけが律輝の目にはっきりと映る。切れ。刺せ。殺せ。殺気と共に、鋭い刃先がまっすぐに急所を捕らえた。警戒していた依澄が後退りながら僅かに上体を反らす。ナイフの切っ先は虚しく空を切る。想定内だ。一発で仕留められるとは思っていない。
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