ろくな死に方しねぇから
律輝は息を吐く。依澄が息を吸う。律輝と依澄の呼吸は合っていない。速度も依澄の方がゆっくりだった。律輝は目を閉じ、意識して深呼吸をする。首筋にかかる吐息よりもゆっくり。息を吸って、吐く。喰い殺されるわけにはいかない。
依澄の牙が柔らかい皮膚に触れる瞬間、目を開いた律輝は素早く足を引っ掛けた。同時に、左腕で依澄の鎖骨を押す。依澄の身体が後方へ傾く。赤い瞳と目が合った。焦ってはいなかった。胸倉からも、腕からも、依澄の手は離れなかった。律輝の手も、ナイフから離れなかった。
依澄を押し倒しながら、どさくさに紛れるようにナイフを深く突き刺す。突き刺さった。さっきまでの抵抗が嘘のように、まるで誘導されたかのように、簡単に突き刺さった。違和感が鎌首を擡げた途端、その正体を突きつけてくるかのように激しい痛みに襲われた。腕だ。依澄に爪を立てられていた腕。意識すると、更に痛みが広がった。耳が不快な音すら拾った。ぶちぶちと繊維がちぎれるような音。血液の臭いが鼻腔を掠める。生温かい液体が手を濡らす。皮膚が、引っ張られている。その瞬間、律輝は理解した。依澄が、食い込ませた爪を利用し、腕の肉を引きちぎっているのだと。そう理解した時には、律輝の身体の一部は引き裂かれた制服もろとも依澄に握られていた。
己の脇腹を代償に、血肉を毟り取った依澄の背中を地面に叩きつける。律輝の右腕から、依澄の脇腹から、大量の血液が噴き出し流れ落ちていく。律輝は負傷した自身の腕を一瞥した。見るべきではないと分かっていたが、見てしまった。骨が覗いていた。筋繊維はほつれているようだった。まさに、喰いちぎられた、と表現できそうなグロテスクな有様。
欠けた肉は依澄の手の中にある。生々しい咀嚼音。依澄は、脇腹にナイフが刺さったまま、律輝の下で、律輝の肉を、噛みちぎって喰っていた。
「今まで、喰べてきた中で、一番、美味しいよ。全部、欲しくなる」
依澄の牙が柔らかい皮膚に触れる瞬間、目を開いた律輝は素早く足を引っ掛けた。同時に、左腕で依澄の鎖骨を押す。依澄の身体が後方へ傾く。赤い瞳と目が合った。焦ってはいなかった。胸倉からも、腕からも、依澄の手は離れなかった。律輝の手も、ナイフから離れなかった。
依澄を押し倒しながら、どさくさに紛れるようにナイフを深く突き刺す。突き刺さった。さっきまでの抵抗が嘘のように、まるで誘導されたかのように、簡単に突き刺さった。違和感が鎌首を擡げた途端、その正体を突きつけてくるかのように激しい痛みに襲われた。腕だ。依澄に爪を立てられていた腕。意識すると、更に痛みが広がった。耳が不快な音すら拾った。ぶちぶちと繊維がちぎれるような音。血液の臭いが鼻腔を掠める。生温かい液体が手を濡らす。皮膚が、引っ張られている。その瞬間、律輝は理解した。依澄が、食い込ませた爪を利用し、腕の肉を引きちぎっているのだと。そう理解した時には、律輝の身体の一部は引き裂かれた制服もろとも依澄に握られていた。
己の脇腹を代償に、血肉を毟り取った依澄の背中を地面に叩きつける。律輝の右腕から、依澄の脇腹から、大量の血液が噴き出し流れ落ちていく。律輝は負傷した自身の腕を一瞥した。見るべきではないと分かっていたが、見てしまった。骨が覗いていた。筋繊維はほつれているようだった。まさに、喰いちぎられた、と表現できそうなグロテスクな有様。
欠けた肉は依澄の手の中にある。生々しい咀嚼音。依澄は、脇腹にナイフが刺さったまま、律輝の下で、律輝の肉を、噛みちぎって喰っていた。
「今まで、喰べてきた中で、一番、美味しいよ。全部、欲しくなる」