ろくな死に方しねぇから
 漏れる息。赤く汚れた口。血走った目。徐に動く手。襲いかかる頑丈な鋭い爪。右手に力が入らない。もうほとんど使い物にならないその手では押さえ込めない。止められない。意識が飛びそうなほどに持続する激痛に動作が鈍る。思うように身体を動かせない。避けられない。無事な左手も間に合わない。それでも、律輝は足掻いた。死ぬ気で殺す。死んでも殺す。

 依澄の爪が、律輝の脇腹に突き刺さる。躊躇なく肉を抉るように捻られる。悶絶しそうだった。溢れた血液が飛び散った。律輝は痛みに堪えながら、依澄に刺さっているナイフの柄を左手で掴む。肉がぶちぶちと引きちぎられる音が近い。依澄も必死に喰い殺そうとしている。もうただの不仲なクラスメートではない。殺し屋とヴァンパイアの関係だ。負けるわけにはいかない。

 律輝はナイフを引き抜いた。流血の勢いが増す。堰を切ったようにどくどくと溢れ出す。粘ついた血液の臭いが鼻にこびりつく。刺さったナイフを引き抜かれ大量に出血しても、依澄の手は一切緩まない。離れない。同じく出血している律輝も、一歩も引かない。

 揃って瀕死に近い最中、殺意をぶつけ合う二人の視線が衝突する。依澄の喉仏が上下する。律輝の血肉が飲み下される。血塗れの手の中は既に空。喰べ切っても満足していない貪欲な依澄が、更に血肉を求めて手を突き出す。激痛を訴える身体に鞭を打つ律輝は、使い慣れた愛用のナイフを素早く振り切る。攻撃が重なる。互いに急所を狙う。迫る手。迫る刃。止まらない出血。止まらない動悸。敵対する殺し屋の命を喰うヴァンパイア。敵対するヴァンパイアの命を狩る殺し屋。

 突き出す。振り切る。殺し合う。鮮血が飛び散る。鮮血が零れ落ちる。掻っ捌かれた依澄の首から。そして、突き刺された律輝の胸から。

「道連れだよ、蓑島」

 血が絡んだような声。気色の悪い不敵な笑み。拍子抜けしそうなほどあっさりと諦めた生。
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