ろくな死に方しねぇから
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 午後からは、明日開催される文化祭の準備に費やされることになっていた。そのためか、昼休みの時点で、クラスメートのほとんどがどことなく上機嫌のように見えた。

 前にも横にも人がいない席で一人、持参した菓子パンに齧り付く律輝は、横目で依澄の様子を窺っていた。グループの輪の中心にいる依澄は、常に笑顔を絶やさないでいる。誰もその笑みを胡散臭いと思わないのが不思議でならなかった。人喰いヴァンパイアであることを知らなければ、怪しく感じることなどないのかもしれない。

 ヴァンパイアは普通の人間と同じ見た目である。ヴァンパイアだと言わなければ分からないくらい大差はなく、言われてもそのように見えない場合もあった。自分がヴァンパイアである旨を他人に打ち明けるか否かは個人の判断に任されており、必ず公表しなければならない事柄ではない。このクラスにも、律輝の知らないヴァンパイアが潜んでいる可能性は大いにあるが、依澄のように危険な種類でなければ知る必要はなかった。

 律輝は機械的に菓子パンに噛み付き、音を立てずに噛み砕いた。数百円の菓子パンで昼食を済ませる律輝と違って、依澄はしっかり弁当を食べている。ヴァンパイアだからといって、血液しか飲めないわけではない。一般的な食事も摂れる。ただ、定期的に血液を摂取しなければ徐々に衰弱し、最悪の場合は死に至る体質であった。故に、ヴァンパイアにとって血液は必要不可欠な栄養素だ。摂取方法も個人によって異なり、その悪い例が依澄の人喰いであることは言うまでもないだろう。

「なぁ、明日ってさ、俺らタキシード着せられるんだろ? 結構恥ずかしくね?」

「お前に恥ずかしいって概念あんのかよ」

「普通にあるわ。でももうやるしかないもんな」

「そうだよ。もうやるしかないよ」

「ノリノリだな。でも宮間は最初から面白そうって言ってたな、そういえば」
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