イケメン年下君がメロメロなのは、私って本当ですか?
真緒は、さっと鍋に出汁をとり、冷凍うどんを入れる。
あたたかい湯気と優しい匂いが部屋いっぱいに広がった。

「ほら、少しでも食べなきゃ」
蒼をベッドに起こし、スプーンで少しずつ口に運ばせると、彼は素直に口を開けた。
「……美味しいです」
かすれた声でそう言う蒼を見て、思わず胸がきゅっとなる。

食べ終えたあと、真緒は少しよくなったときに食べられるようにと、おかゆや煮物を小分けにして保存。
冷蔵庫にはゼリーやヨーグルトも並べておいた。

「これで、しばらく寝てるんだよ」

弱々しく笑う蒼の顔を見て、なんだか放っておけない気持ちがまた強くなる。
ほんと、世話の焼ける後輩だ――。

蒼がとろんとした目でこちらを見上げた。
「……真緒さん」
呼ばれただけなのに、胸の奥がどきっと跳ねる。

「なに?」と平静を装って返すと、彼はゆっくり瞬きをして、少し照れたように笑った。
「ほんとに……ありがとうございます」

熱のせいで赤い頬。
その無防備な表情に、思わず視線を逸らした。

「じゃあ、私はそろそろ帰るから」
そう言って立ち上がろうとした瞬間、
「……いやです」
蒼の手が、私の袖をぎゅっと掴んだ。

「え?」
「帰らないでください……もう少しだけ、そばにいてほしい」

子どもみたいに弱った声。
私は袖を掴む蒼の手を、振りほどくことができなかった。
その瞬間――。
バッグの中でスマホがぶるぶると揺れた。

「……っ!」
慌てて取り出すと、画面に表示されたのは係長の名前。

――そうだ、今は業務中だった!

通話ボタンを押すと、すぐに耳に届いたのは、声からもにやにやが透けて見えるような調子だった。

「おーい、来栖。そっちの状況どう~?」

「っ……!」
心臓が飛び出そうになる。
まさか、本当に茶化すために電話してきたわけじゃないでしょうね……!?

ベッドの上では、蒼がこちらをじっと見つめている。
袖をまだ握ったまま――。

「大変なら、年休取ってもいいぞ~」
電話口から軽い声。完全に茶化している。

「なっ……!」
私は思わず声を荒げた。
「そんなわけないでしょう!? すぐ戻りますから!」

横目で蒼を見ると、熱で顔を赤くしながら、くすっと笑っている。
――もう!笑う余裕あるなら寝てなさいよ!

電話の向こうで係長は「はいはい~、ごゆっくり~」と悪びれず、ぷつりと通話が切れた。

……完全に遊ばれてる。
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