イケメン年下君がメロメロなのは、私って本当ですか?
ある日、私は朝からずっと気が休まらなかった。
小さなトラブルが連鎖のように起きて、気づけば自分の確認不足だったり、誰かの見落としをフォローしたり。
午前中からずっと、慌ただしく走り回っていた。
昼を過ぎても、状況は落ち着かない。
書類を直して、電話対応して、メールを飛ばして。
自分でも何をしているのか途中で分からなくなるほど、頭の中がごちゃごちゃになっていた。
気づけば、外はすっかり暗くなっていた。
周りの人たちは順番に退社していって、オフィスにはもう数人しか残っていない。
私は椅子に座ったまま、深く息を吐いた。
「……やっと、ここまで」
一つ大きな案件の目処がついたとき、ようやく肩の力が抜ける。
時計を見ると、もうこんな時間。
今日も残業か、と諦めながら、保存したデータを確認していたその時――
「……え、嘘……」
目を疑った。数字の桁が、ズレている。
その瞬間、心臓がドクンと大きな音を立てた。
このまま提出していたら、取引先に多大な迷惑をかけるところだった。
疲れで頭がぼんやりする。
背中に冷たい汗がつたう。
「なんで、こんな基本的なミス……」
自分に言い聞かせるように呟きながら、震える手で再計算を始めた。
時計の針は、もう終電に近い時刻を指している。
けれど、やるしかない。
必死で数字を打ち直すたび、胃の奥がきゅっと締めつけられる。
まるで暗闇の中でもがいているような気分だった。
「どうしました?」
不意に後ろから声がして、心臓が跳ねあがった。
はっと振り返ると、そこに蒼が立っていた。
――なんでまだ残ってるの?
そう思うより早く、涙がこみあげそうになった。
張り詰めていた糸が、ぷつんと切れたみたいに。
けれど、目を逸らして画面に視線を戻す。
何も言えない私を見て、蒼は一歩近づくと、静かにパソコンの画面を覗き込んだ。
「……桁違いですね」
落ち着いた声。
けれど責めるでも、驚くでもなく、ただ状況を確認するように淡々と。
私は唇を噛んで、うつむいた。
「……そう。全部やり直し」
声が震えて、自分でも情けなくなる。
蒼はしばらく黙って画面を見ていたが、ふっと息をつくと、椅子を引き寄せて隣に腰を下ろした。
「じゃあ、一緒に直しましょう」
泣きたくなるのを必死に堪えながら、私は小さく頷いた。
二人は余計な言葉を交わさず、もくもくと業務をこなした。
カタカタとキーボードを打つ音、紙をめくる音だけが、静まり返ったオフィスに響く。
(とにかく……今日中に終わらせなきゃ)
プレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、蒼がそばにいてくれる。
安心感があった。
ふと横目で見ると、蒼は真剣な表情で画面に向かっている。
昼間の柔らかい笑顔とは違う、きりっとした横顔。
その姿に、胸が少しざわついた。
そうだ、この人は仕事はよくできるんだ……
やがて、ようやく修正が完了し、印刷を終えたとき――時計の針は深夜を回っていた。
「……できましたね」
蒼が小さく息を吐き、椅子にもたれる。
私は疲れ果てて、机に突っ伏した。
「はぁ……生き返った……」
「お疲れさまでした」
優しくかけられた声に、心がほどけていくのを感じた。
小さなトラブルが連鎖のように起きて、気づけば自分の確認不足だったり、誰かの見落としをフォローしたり。
午前中からずっと、慌ただしく走り回っていた。
昼を過ぎても、状況は落ち着かない。
書類を直して、電話対応して、メールを飛ばして。
自分でも何をしているのか途中で分からなくなるほど、頭の中がごちゃごちゃになっていた。
気づけば、外はすっかり暗くなっていた。
周りの人たちは順番に退社していって、オフィスにはもう数人しか残っていない。
私は椅子に座ったまま、深く息を吐いた。
「……やっと、ここまで」
一つ大きな案件の目処がついたとき、ようやく肩の力が抜ける。
時計を見ると、もうこんな時間。
今日も残業か、と諦めながら、保存したデータを確認していたその時――
「……え、嘘……」
目を疑った。数字の桁が、ズレている。
その瞬間、心臓がドクンと大きな音を立てた。
このまま提出していたら、取引先に多大な迷惑をかけるところだった。
疲れで頭がぼんやりする。
背中に冷たい汗がつたう。
「なんで、こんな基本的なミス……」
自分に言い聞かせるように呟きながら、震える手で再計算を始めた。
時計の針は、もう終電に近い時刻を指している。
けれど、やるしかない。
必死で数字を打ち直すたび、胃の奥がきゅっと締めつけられる。
まるで暗闇の中でもがいているような気分だった。
「どうしました?」
不意に後ろから声がして、心臓が跳ねあがった。
はっと振り返ると、そこに蒼が立っていた。
――なんでまだ残ってるの?
そう思うより早く、涙がこみあげそうになった。
張り詰めていた糸が、ぷつんと切れたみたいに。
けれど、目を逸らして画面に視線を戻す。
何も言えない私を見て、蒼は一歩近づくと、静かにパソコンの画面を覗き込んだ。
「……桁違いですね」
落ち着いた声。
けれど責めるでも、驚くでもなく、ただ状況を確認するように淡々と。
私は唇を噛んで、うつむいた。
「……そう。全部やり直し」
声が震えて、自分でも情けなくなる。
蒼はしばらく黙って画面を見ていたが、ふっと息をつくと、椅子を引き寄せて隣に腰を下ろした。
「じゃあ、一緒に直しましょう」
泣きたくなるのを必死に堪えながら、私は小さく頷いた。
二人は余計な言葉を交わさず、もくもくと業務をこなした。
カタカタとキーボードを打つ音、紙をめくる音だけが、静まり返ったオフィスに響く。
(とにかく……今日中に終わらせなきゃ)
プレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、蒼がそばにいてくれる。
安心感があった。
ふと横目で見ると、蒼は真剣な表情で画面に向かっている。
昼間の柔らかい笑顔とは違う、きりっとした横顔。
その姿に、胸が少しざわついた。
そうだ、この人は仕事はよくできるんだ……
やがて、ようやく修正が完了し、印刷を終えたとき――時計の針は深夜を回っていた。
「……できましたね」
蒼が小さく息を吐き、椅子にもたれる。
私は疲れ果てて、机に突っ伏した。
「はぁ……生き返った……」
「お疲れさまでした」
優しくかけられた声に、心がほどけていくのを感じた。