イケメン年下君がメロメロなのは、私って本当ですか?
「ありがとう。今度、お礼させて」
深夜のオフィスに、私のかすれた声が響く。
蒼は一瞬、驚いたように目を見開き、それから少し考えるように首をかしげた。

「……じゃあ」
声がいたずらっ子のように弾む。
「真緒さんから、キスのお礼がほしいです」

「な……」
思わず目を丸くする。

けれど、そのときの私は、疲れ果てて頭が回らなかった。
この前、看病したから、帳消し!
そうも取れたのに……

「……いいよ」

今度は、彼は目を丸くして驚いていた。

私は、椅子をくるりと回し、彼の前に立つ。
そして、ためらいもなく彼の頭をぐいっと引き寄せ、ちゅっと唇に触れた。

――あっけなく、でも、あまりにも鮮烈なキス。

数秒の出来事なのに、体中に熱が走った。
蒼は固まったように動かない。やがて、ゆっくりと目を閉じ、息を呑む音が聞こえた。

私の心臓は、もう限界なくらい高鳴っている。
「……これで、いい?」

「……全然、足りません」
彼の低い声が耳元に落ちてきた瞬間、背筋がぞくりと震えた。

蒼の瞳は、もういたずらっ子のそれではなく、まっすぐに私を射抜いていた。
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